📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(1500字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:恋愛・青春
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
屋上の片隅にある小さな花壇。その水やり当番を通じて交わされる、言葉少ない二人の放課後の時間を描いた物語です。特別な出来事は何も起こりません。それでも積み重なる沈黙と、じょうろの水音だけが確かに二人の距離を縮めていきます。
この作品の読みどころは、はっきりとした告白の代わりに「行動」で気持ちを伝え合う二人の不器用さです。卒業という区切りを前にした、名前のつかない感情の揺れをどう聴かせるかが鍵になります。
朗読する際は、終始抑えたトーンを保ちながら、水やりの場面ではやわらかく、別れの場面ではわずかに声を落とすことを意識すると、余韻がより深く伝わります。
朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して、淡々とした説明口調ではなく、思い出を静かに反芻するような柔らかいトーンで読むと作品の空気に合います。
② 緩急のつけ方
「今日、水やり当番代わろうか」という一言は、軽く投げかけるように速さを保って読み、直後の間(沈黙)をしっかりと取ることで、二人の距離感を表現してください。
③ 感情表現のコツ
クライマックスとなる卒業式当日の場面では、感情を爆発させず、囁くように声量を落として読むことで、抑えきれない想いがにじむ表現になります。
④ ラストの処理
最後の一文は語尾を伸ばさず、静かに言い切って余白を残すように締めくくると、聴き手の中に情景が長く残ります。
台本本文
屋上の花壇当番は、二年生になってから割り当てられた、地味な仕事だった。じょうろに水を汲み、階段を上り、風の強い日には土が飛ばされないよう手で覆う。それだけの、毎日代わり映えのない時間。
けれど、その当番が私と彼の二人組だと知ったとき、放課後の時間割が少しだけ違って見えた。
「今日、水やり当番代わろうか」
彼はよくそう言って、私の分のじょうろまで持ち上げてしまう。断る理由もなく、私はいつも「じゃあ、半分だけ」と答えて、結局並んで水をやることになる。
会話らしい会話はほとんどなかった。今日は暑いね、この花もう少しで咲きそうだね。そんな言葉を、水音の合間にぽつぽつと交わすだけ。
それでも、その十分間だけは、教室にいるときよりずっと呼吸がしやすかった。
秋が深まり、花壇の花が入れ替わる頃、彼はふと言った。
「卒業したら、この花壇どうなるんだろうな」
私は答えられなかった。花壇のことを聞かれているのに、頭の中では別のことばかり考えていたから。
三月、卒業式の朝。教室に彼の姿はなかった。式が終わり、誰もいなくなった屋上に上がると、花壇の隅に小さな紙切れが挟まれていた。
「来年もちゃんと咲くように、種、多めに蒔いておいた」
それだけが書かれていた。私は紙を握りしめたまま、しばらくその場を動けなかった。
じょうろは、まだ水を半分残したままだった。私はそれを、いつもの半分だけ、花壇に注いだ。
誰もいない屋上に、水音だけが静かに響いていた。
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