【フリー朗読台本】続きを書いたのは誰だ|5分・1人用|じわじわ怖い謎解き好きに|声の書

ミステリー・サスペンス

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1470字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ミステリー・サスペンス
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
📋 ご利用規約:こちらをご確認ください


作品について

公園のベンチの下に置かれた一冊のノート。「この続きを書いてください」とだけ記されたそれには、見知らぬ誰かの手による日常の断片が、淡々と綴られていた。ありふれた記録のはずが、ある一行から様相が変わっていく。

この作品の読みどころは、まだ起きていないはずの出来事が、すでにノートに書かれているという違和感の積み重ねにある。派手な事件は起きない。それでも、日常の輪郭が少しずつ歪んでいく感覚を味わえる一編。

朗読の際は、終始落ち着いたトーンを保ちながら、核心に触れる場面でわずかに間を置くことで、静かな緊張感を伝えられる作品です。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、感情を大きく揺らさず淡々と読むのが効果的です。「五月十二日、駅前の花屋が閉店した」のような日常の記述部分は、ニュース原稿のように平坦に読むことで、後半の違和感が際立ちます。

② 緩急のつけ方

「六月三日、区役所通りの信号が丸一日故障していた」の一文の直前で、わずかに間を取ってください。読み手自身が気づいた瞬間の「間」を、聞き手にも共有するイメージです。

③ 感情表現のコツ

恐怖よりも戸惑いを主に演じるのがポイントです。声を張り上げず、囁くように速度を落とす程度で十分に不穏さが伝わります。

④ ラストの処理

最後の一文は、突き放すのではなく静かに置いていくように読み終えてください。余韻を残したまま、声を切ることを意識してください。


台本本文

昼休みのベンチに、いつも同じ場所に座る癖がある。今日もその公園の隅、欅の木陰にあるベンチに腰を下ろすと、座面の下に何か挟まっているのに気づいた。手を伸ばして取り出してみると、古びた大学ノートだった。表紙には角が擦り切れ、手書きの文字で「この続きを書いてください」とだけ記されている。持ち主の名前も、連絡先も、どこにも書かれていない。

好奇心に負けて開いてみると、几帳面な字で短い文章が綴られていた。「五月十二日、駅前の花屋が閉店した。店主は何も言わずに看板を下ろした」――日付と、誰かの日常のひとかけらが淡々と書かれているだけの、他愛のない記録だった。次のページも、その次も、似たような調子で続いている。天気のこと、近所の出来事、すれ違った誰かの一言。特別な事件は何ひとつなく、それがかえって不思議だった。

書いた人物は毎回違うようで、字も筆致もばらばらだった。誰かが書き、それを読んだ別の誰かがまた続きを書く。そうやって、名前も知らない書き手たちの手を渡り歩いてきたノートらしい。悪戯にしては手が込んでいる、そう思いながらも、次のページに目を通した瞬間、指が止まった。

「六月三日、区役所通りの信号が丸一日故障していた」

今日の日付だった。そして、それは本当に今朝、自分が目にした光景だった。信号が消えたままの交差点で、警官が手信号で車を捌いていた。それを見たのは、自分とほんの数人のはずだ。なぜそれが、このノートに先に書かれているのか。偶然だと片づけようとしたが、うまく言葉にならなかった。

背筋に冷たいものが走ったが、ページを閉じることはできなかった。むしろ確かめたくなった。次のページ、その次のページ。どれも似たような、ごく小さな出来事ばかりが並んでいる。けれど、日付は今日よりも先――まだ起きていないはずの、明日、明後日の欄まで埋まっていた。

「六月五日、公園の欅の葉が、季節外れに色づき始める」

そんな馬鹿な話があるかと笑おうとして、しかし笑えなかった。頭上を見上げると、青々と茂った欅の葉の先が、ほんのわずかに色を変えているような気がした。気のせいだと思いたかった。もし本当にそうなったら。もしこのノートに書かれた通りに、世界が動いていくのだとしたら。自分はこれから、その続きをただ見せられ続けるだけの存在なのだろうか。

それとも――このノートは、これから起きることを記しているのではなく、誰かが起きてほしいと願ったことを、先に書き記しているだけなのかもしれない。だとしたら、次に何を書くかによって、続きが変わることもあるのだろうか。そう考えると、手の中のノートが急に重たく感じられた。

しばらく考えた末、ペンを取り出した。空白のページに、今日の日付と、今の自分の気持ちをそのまま書きつけた。「ノートを拾った。続きが怖くて、でも読むのをやめられなかった。もし次の人がこれを読んでいるなら、どうか怖がらずに、次を書いてほしい」――正直に、それだけを記した。

書き終えて、ノートを閉じる。誰が最初に書き始めたのかは、結局わからないままだった。けれど、それでいいような気がした。次にこのベンチに座る誰かが、また続きを読み、また何かを書き足していくのだろう。自分が加えたひとことも、いつか誰かにとっての「先に書かれていたこと」になるのかもしれない。

ノートを、もとの座面の下にそっと差し戻した。欅の葉が風に揺れる音だけが、しばらく耳に残っていた。明日、この場所にまた来るかどうかは、まだ決めていない。ただ、次にここに座る誰かのために、ノートはきっとまだそこにある。

同じジャンルの関連台本

【ミステリー・サスペンス】系の台本をもっと探したい方は、以下もあわせてご覧ください。

リクエストや感想はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました