【フリー朗読台本】明日の新聞、まだ濡れている|5分・男性1人用|ゾワッと来るサスペンス好きへ|声の書庫

ミステリー・サスペンス

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(1,473字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ミステリー・サスペンス
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

いつもより一時間早く届いた新聞。指先に感じる湿り気と、印刷された「明日の日付」。そこから始まる、たった一日の不穏な体験を描いたミステリー朗読台本です。

この作品の読みどころは、「事件は起きたのか、起きていないのか」が最後まで明かされない構成にあります。派手な展開はなく、日常のわずかなズレが少しずつ積み重なっていくことで、聴き手の中に静かな不安が残ります。

朗読する際は、動揺を大きく表に出さず、自分に言い聞かせるような抑えた語り口を意識すると、この作品特有の不気味さが際立ちます。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、恐怖よりも「困惑」を軸にしてください。新聞の日付に気づく場面は、大げさに驚くのではなく、じわじわと違和感が広がる程度の抑えたトーンが効果的です。

② 緩急のつけ方

「本日午後三時ごろ、〇〇町の交差点で男性が乗用車にはねられ死亡」の記事部分は、少し間を置いてから、淡々と読み上げてください。感情を込めすぎないことで、逆に不気味さが際立ちます。

③ 感情表現のコツ

「気味の悪い冗談だ」と呟く場面は、自分を落ち着かせようとする空元気として、やや早口気味に。本音の不安がにじむように演じるのがコツです。

④ ラストの処理

最終段落「指先が、かすかに震えているのに気づいた」は、声を落とし、余韻を残してゆっくりと締めくくってください。


台本本文

その日の新聞は、いつもより一時間早く郵便受けに入っていた。

普段なら出勤直前に慌ただしく取り出すだけの新聞だが、その朝は妙に早く目が覚めてしまい、時間を持て余していた私は、なんとなく玄関先で新聞受けに手を伸ばした。指先に妙な湿り気を感じて、動きが止まった。紙面全体が、ほんのりと濡れている。今朝は、まだ一滴の雨も降っていないはずだった。天気予報でも、今日は一日晴れると言っていた。

違和感を覚えながら朝刊を開くと、さらに妙なことに気づいた。日付欄に印刷されているのは、今日ではなく、明日の日付だった。誤植だろうと思い、社会面をめくった手が止まった。

「本日午後三時ごろ、〇〇町の交差点で男性が乗用車にはねられ死亡」

記事には、名前も年齢も伏せられていた。ただ、事故現場として書かれていた交差点は、私が毎日、駅までの道すがら渡る、あの交差点だった。

「気味の悪い冗談だ」

声に出して呟いてはみたものの、胸のざわめきは消えなかった。念のため、今日はいつもと違う道を通って駅へ向かうことにした。

遠回りをしたせいで、電車には乗り遅れそうになった。腕時計を確かめながら足を速めた、その瞬間、後ろから声をかけられた。

「すみません、この辺りに郵便局はありますか」

振り返ると、見知らぬ中年の男が地図を片手に立っていた。道を教えているうちに、数分が過ぎた。結局、いつもの電車には間に合わなかった。

会社に着いてからも、あの記事のことが頭から離れなかった。パソコンの画面を見ているつもりで、頭の中では何度もあの交差点の光景を思い浮かべていた。青信号、白線、行き交う車。自分がそこに立っていたかもしれない、という想像を振り払うことができなかった。昼休み、同僚に何気なく聞いてみた。

「近くの交差点で、何か事故のニュースとか聞いた?」

同僚は怪訝な顔をして、首を横に振った。「そんな話、聞いてないけど」。その一言に少し安心しながらも、心のどこかで、何もないはずだ、と自分にもう一度言い聞かせる必要があった。

午後三時。ちょうどその時刻、私は会議室にいた。窓の外を、救急車のサイレンが通り過ぎていく音が聞こえた気がしたが、確かめる術はなかった。

会議が終わり、スマートフォンでニュースを検索してみたが、事故の記事はどこにも見当たらなかった。安堵しながら帰路につき、いつもの交差点に差しかかったとき、信号待ちをしていた見知らぬ男と目が合った。

朝、道を尋ねてきた、あの中年の男だった。男は小さく会釈をして、横断歩道を渡っていった。

その背中を見送りながら、私はふと思った。もし今朝、道を尋ねられなかったら。もし遠回りをせず、いつもの電車に乗っていたら。あの記事に書かれていたのは、本当に、誰のことだったのだろうか。

考えれば考えるほど、記事の文面が頭の中で鮮明になっていく。名前も年齢も伏せられていたのに、なぜかその「男性」という言葉だけが、やけに自分に近いものに思えてならなかった。あるいは、あの中年の男に道を教えたことで、何かが入れ替わったのかもしれない。そんな馬鹿げた考えさえ、今日ばかりは笑い飛ばせなかった。

家に帰り、今朝の新聞をもう一度確かめようとした。けれど、郵便受けにも、鞄の中にも、あの新聞はどこにも見当たらなかった。念のため、今日発行された朝刊を買い直してみたが、そこにあの記事は載っていなかった。事故そのものが、なかったことになっているのか。それとも、まだ起きていないだけなのか。

翌朝、私はまた同じ時刻に目が覚めた。郵便受けに手を伸ばす前に、指先が、かすかに震えているのに気づいた。

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