【フリー朗読台本】そこにも、部屋がある|5分・1人用|一人暮らしの女性が読む怪談に|声の書庫

ホラー/怪談

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1500字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー/怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

単身者向けマンションのエレベーターを舞台にした怪談です。表示パネルに現れるはずのない階数、その先に続くのは、住人の記憶からも忘れられかけた誰かの生活の跡。日常に紛れ込んだ違和感が、少しずつ輪郭を持っていく過程を描きます。

本作の読みどころは、「異変に気づいていながら、気づかないふりをする」語り手の心理描写です。恐怖を大げさに演出するのではなく、じわじわと外堀を埋めるように違和感を積み重ねる構成が特徴です。

朗読の際は、終始落ち着いたトーンを保ちながら、後半にかけてわずかに声の温度を下げていくような読み方が合います。

朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、淡々とした日常会話のトーンで読み進めてください。恐怖を煽るような抑揚は不要です。むしろ「なんでもないことのように話す」姿勢が、後の違和感を際立たせます。

② 緩急のつけ方

「四階と五階のあいだで、扉が開いた」の一文では、あえて間を詰めず、一拍置いてから続けてください。読み手が驚くより先に間を作ることで、聞き手の想像が先に走ります。

③ 感情表現のコツ

クライマックスの「そこにも、ちゃんと部屋があるのね」という一言は、恐怖ではなく、どこか納得したような穏やかな声で読んでください。恐怖よりも不気味な余韻が生まれます。

④ ラストの処理

最後の一文は声量を落とし、囁くように読み終えてください。余白を残したまま、静かにフェードアウトさせるイメージです。


台本本文

引っ越して三ヶ月になる。単身者向けの、七階建てのマンションだ。エレベーターは古いけれど、表示パネルの数字だけは律儀に光っている。

気づいたのは、先週のことだった。四階のボタンを押したはずなのに、パネルの表示が「4」と「5」のあいだで一瞬だけ止まる。点滅の癖だろうと思って、それ以上は気にしなかった。

けれど昨夜、扉が開いた。

四階と五階のあいだで、扉が開いた。

目の前には、見たことのない廊下が伸びていた。等間隔に並んだドア、くすんだベージュの壁紙、天井の蛍光灯はどれも同じ角度で点滅している。廊下の奥、いちばん手前のドアの表札に、見覚えのある字が書かれていた。三年前に引っ越していった、隣の部屋の住人の名前だった。

扉はすぐに閉まった。エレベーターは何事もなかったように五階へ着き、わたしは自分の部屋に戻った。

その夜から、毎晩同じことが起きた。四階と五階のあいだで扉が開き、廊下の奥のドアの表札だけが、少しずつ増えていく。どれも、この建物からいなくなった人たちの名前だった。引っ越したはずの人、消息を聞かなくなった人、そして先月まで隣に住んでいたはずの、あの静かな老人の名前も。

今夜も、扉が開いた。廊下の奥、いちばん手前のドアに、見慣れた字が増えていた。

わたしの、名前だった。

扉の向こうから、誰かの声がした。責めるでも急かすでもない、ただ確かめるような、穏やかな声だった。

「そこにも、ちゃんと部屋があるのね」

わたしは何も答えず、閉じていく扉をただ見ていた。エレベーターは、いつも通り五階へ着いた。

今、この部屋の合鍵は、まだ手の中にある。けれど最近、自分がどちらの部屋の鍵を持っているのか、時々わからなくなる夜がある。

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