【フリー朗読台本】温もりを継いでしまった|8分・1人用|背筋がぞわつく家族ホラーに|声の書庫

ホラー/怪談

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約8分(約2346字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー・怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
📋 ご利用規約:こちらをご確認ください


作品について

正月に三年ぶりに訪れた実家。仏間に置かれたままの、亡き祖父の座布団に触れたことから始まる物語です。誰も座らないその場所に宿る、説明のつかないあたたかさを描いています。

この作品の読みどころは、恐怖が大きな出来事としてではなく、日常の中にじわじわと侵食してくる構成にあります。主人公の仕草や表情が少しずつ変化していく様子を、家族の何気ない一言が浮き彫りにしていきます。

朗読する際は、序盤は穏やかな家族の情景として、後半にかけて徐々に声の温度を落としていくことを意識してください。叫ぶような恐怖ではなく、静かに染み込むような不安を表現するのがおすすめです。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

序盤は、穏やかで懐かしむような口調を意識してください。家族の団らんの温かさを丁寧に描くことで、後半の不穏さとの対比が際立ちます。

② 緩急のつけ方

「おばあちゃん、最近、なんだか座り方が、おじいちゃんに似てきたね」という姪の台詞の後は、しっかりと間を取ってください。無邪気な言葉だからこそ、間の静けさが恐怖を引き立てます。

③ 感情表現のコツ

記憶が流れ込んでくる場面では、淡々と、しかしどこか恍惚とするような、危うい心地よさを声に滲ませてください。怖がっているのに惹かれてしまう、その矛盾した感情がこの作品の核になります。

④ ラストの処理

最後の「確かめる勇気がない」は、囁くように、余韻を残して静かに語尾を消していくと、聴き手に不安を残したまま終わることができます。


台本本文

正月に、実家に帰るのは三年ぶりだった。祖父が亡くなってから、なんとなく足が遠のいていたのだと思う。仕事の忙しさを理由にしていたけれど、本当は、祖父のいない実家に帰るのが、少し怖かったのかもしれない。

久しぶりに顔を合わせる親戚たちと、居間で賑やかに過ごした。従兄弟の子どもたちがはしゃぎ回り、伯母たちは台所で忙しそうに立ち働いている。祖父が生きていた頃と、変わらない光景だった。ただ一つ、祖父の姿だけが、そこになかった。

賑やかな時間が一段落した頃、私はふと、仏間の襖の隙間から、あの座布団が目に入った。

祖父が生前、いつも座っていた場所だ。少し色褪せた紺色の座布団で、正月も、法事の時も、家族の誰もそこには座らない。座るべきではない、というような、暗黙の了解が、この家にはあった。祖父は、寡黙だが穏やかな人だった。晩年は、毎朝その座布団に座り、新聞を広げながら、ゆっくりとお茶を飲むのが日課だった。

「あの座布団、まだ処分してないんだね」

母にそう言うと、母は少し困ったように笑った。

「なんとなく、ね。捨てる踏ん切りがつかなくて」

その夜、親戚たちがそれぞれの部屋に引き上げた後、私は一人、居間に残っていた。眠れないまま、なんとなく仏間の前を通りかかったとき、ふと、あの座布団が気になった。誰も見ていない。ほんの少しの好奇心から、私は静かに襖を開けて、中に入った。

正座するように、座布団に腰を下ろす。ひやりとした畳の感触を予想していたのに、思いのほか、座布団はあたたかかった。まるで、たった今まで誰かが座っていたかのように。

不思議に思いながらも、その温もりに包まれていると、いつの間にか、うとうとと眠気が差してきた。膝の上に、何か重みを感じた気がした。猫でも乗ってきたのかと思って目を開けたが、そこには何もなかった。

その日以来、実家に泊まるたびに、私は夜になると、仏間に足を向けるようになった。誰かに呼ばれているような、そんな気がしてならなかった。座布団に座ると、決まって同じあたたかさが、私を迎えた。

伯母に、それとなく祖父の晩年の様子を尋ねてみたことがある。伯母は少し懐かしそうに、それでいて、どこか寂しそうに答えた。

「最後の方は、もうほとんど、あの座布団の上で過ごしてたのよ。新聞読んで、うとうとして、また目が覚めたら新聞読んで。誰かが声をかけないと、一日中そこにいたんじゃないかしら」

その話を聞いてから、あの部屋に足を運ぶ回数が、なぜか増えていった。

二度目に座った夜、私は妙な感覚に襲われた。何もしていないのに、右手が勝手に、新聞をめくるような仕草をしていた。祖父が、毎朝欠かさずしていた仕草だった。指先が乾いた紙の感触を覚えているような、そんな錯覚さえした。三度目の夜には、小さく咳払いをする自分に気づいた。それも、祖父の癖だった。喉の奥から、意識せずに出てくるその音に、私は少し嬉しくなっている自分がいた。まるで、祖父の一部を、少しだけ分けてもらっているような、そんな気がしたからだ。けれど同時に、その嬉しさの裏側に、うっすらとした違和感が、確かに存在していた。

「おばあちゃん、最近、なんだか座り方が、おじいちゃんに似てきたね」

姪がそう言ったのは、三が日も終わりに近づいた朝のことだった。何気ない一言だったが、背筋に、冷たいものが走った。私はまだ、おばあちゃんと呼ばれる年齢ではない。それなのに、姪の目には、私がそう見えていたのだろうか。

その夜、私は自分に言い聞かせた。もう、あの部屋には行かない。ただの気のせいだ。座布団があたたかいのだって、暖房の効いた部屋に置いてあるからに過ぎない。そう思おうとするほど、なぜか体は勝手に、仏間の方へと向かっていく。気づけば、いつものように、あの座布団の上に座っていた。

その晩も、気づけば仏間に向かっていた。座布団に腰を下ろすと、いつものあたたかさが、いつもより深く、体に染み込んでくるようだった。目を閉じると、遠い記憶のような、見たこともない景色が、頭の中に浮かんできた。若い頃の祖母の顔、この家がまだ新しかった頃の柱の色、庭にまだ小さかった木が植えられたばかりの、白い土の匂い。どれも、私の記憶ではなかった。

それなのに、懐かしいと感じた。まるで、長い年月をかけて、この家の隅々まで見つめ続けてきた誰かの視点を、そのまま借りているような感覚だった。新聞をめくる指の感触、湯呑みの縁の欠け具合、縁側から差し込む冬の日差しの角度まで、驚くほど鮮明に感じ取れた。私は、その心地よさに、抗えなくなっていた。

はっとして目を開けたとき、私は自分がどれくらいの時間、そこに座っていたのか、わからなくなっていた。部屋の外が、うっすらと白み始めていた。慌てて立ち上がると、膝が驚くほど強張っていて、まるで長年正座を続けていた人のようだった。

その日の朝食の席で、母が私の顔を見て、少し驚いたように言った。

「あなた、今、お父さんとそっくりな顔で座ってたわよ」

冗談めかした口調だったが、笑えなかった。母の視線の先には、いつの間にか新聞を広げたまま固まっている、私自身の姿があった。いつ手に取ったのかも、覚えていなかった。

私は、それ以来、あの部屋には近づかないようにしている。実家に帰っても、仏間の前を通るときは、目を合わせないように、少し早足になる。それでも、ふとした瞬間に、あのあたたかさを、体のどこかが覚えている気がしてならない。

座布団は、今もあの場所にある。誰も座らない、あの座布団は、今夜もきっと、誰かがそこに座るのを、静かに待っている。次に座るのが、また私なのか、それとも別の誰かなのか。それだけは、今の私にはわからない。

私はもう、あの温もりを、確かめる勇気がない。

同じジャンルの関連台本

ホラー・怪談系の台本をもっと探したい方は、以下もあわせてご覧ください。

リクエストや感想はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました