【フリー朗読台本】五年越しのキャッチボール|5分・1人用|泣ける兄弟の絆に涙したい方へ|声の書庫

感動・泣ける

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1490字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:感動・泣ける
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

五年前に亡くなった兄が遺した、一つの古いグローブ。中学で野球を始めた弟が、そのグローブを手にしたことから始まる、兄弟の絆を描いた物語です。

この作品の読みどころは、派手な演出ではなく、練習の積み重ねの中に少しずつ兄の記憶が滲み出ていく静かな構成にあります。グローブの内側に隠されていた一言が明かされる場面が、物語の大きな転換点になっています。

朗読する際は、少年らしい素直な語り口を保ちながら、兄との思い出を語る場面ではわずかに声を落とすと、感情の温度差がより際立ちます。過度に泣かせようとせず、抑えた表現を意識してください。



朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン


全体を通して、少年らしい素直で真っ直ぐな声を基調にしてください。感傷的になりすぎず、淡々と思い出を語るような自然体を意識すると効果的です。



② 緩急のつけ方


「坊主、これ、内側に何か書いてあるぞ」の後、「頑張れ、拓海」という文字が明かされる場面では、しっかりと間を取ってください。この静けさが、感情の高まりを引き立てます。



③ 感情表現のコツ


「兄ちゃん、見ててくれた?」の一言は、大きく感情を込めるのではなく、囁くように、静かに問いかけるように読んでください。抑えた声ほど、切なさが伝わります。



④ ラストの処理


最後の「大切に投げていきたいと思う」は、少し声を明るくし、前を向くような温かい余韻を残して締めくくってください。



台本本文

兄が亡くなったのは、僕が小学四年生の時だった。事故だったと聞かされたのは、ずいぶん後になってからだ。当時は、ただ兄がいなくなったという事実だけが、重くのしかかっていた。

兄は、高校球児だった。ピッチャーで、県大会まであと一歩というところまでチームを引っ張っていた。休みの日には、近所の公園で、よく僕とキャッチボールをしてくれた。下手な僕のボールを、兄はいつも大げさに褒めてくれた。

「筋がいいな。お前、もっと上手くなるぞ」

その声を、今もはっきりと覚えている。

中学に上がって、僕は野球部に入った。理由は、たぶん兄への憧れだったと思う。ある日、押し入れの奥を整理していた母が、段ボール箱の中から、古いグローブを見つけてきた。型が崩れかけた、茶色いグローブだった。

「これ、お兄ちゃんが使ってたやつ。捨てるに捨てられなくて」

母はそう言って、少し困ったように笑った。僕は、そのグローブを黙って受け取った。手にはめると、少し大きくて、指先が余った。それでも、なぜか手放す気になれなかった。

その日から、僕はそのグローブで練習を始めた。硬くなった革は、なかなか手に馴染まなかった。指を通すたびに、少し軋むような音がした。それでも、毎日壁当てを続けるうちに、少しずつ、掌の形にフィットしていくのがわかった。ボールを受けるたびに、兄と公園でキャッチボールをした、あの夏の記憶が蘇ってくるようだった。

夕方になると、決まって兄はこう言っていた。「もう一球だけ」そう言いながら、結局何十球も投げ続けるのが、いつもの流れだった。日が暮れて、ボールが見えなくなるまで、僕たちは公園にいた。あの頃は当たり前だと思っていた時間が、今はどうしようもなく、恋しい。

野球部の練習は、思っていた以上に厳しかった。素振り、走り込み、来る日も来る日も同じことの繰り返し。それでも、あのグローブをはめると、不思議と力が湧いてきた。兄がすぐそばで見ているような、そんな気がしていたからかもしれない。

大会を二週間後に控えたある日、練習中に、グローブの紐が切れてしまった。慌てて、近所の靴修理店に持ち込んだ。店主の老人は、グローブを手に取り、しばらく眺めてから、ふと手を止めた。

「坊主、これ、内側に何か書いてあるぞ」

言われて覗き込むと、グローブの土手の裏側に、色褪せた文字で、こう記されていた。

「頑張れ、拓海」

僕の名前だった。兄の字だった。いつ書かれたものかは、わからない。けれど、兄が、いつか僕がこのグローブを使うことを、知っていたような気がした。

大会前夜、僕はそのグローブを枕元に置いて眠った。眠りにつく前、内側の文字にそっと指を這わせた。「頑張れ、拓海」――何度も何度も、なぞった。翌日、マウンドに立つ兄の姿を、想像した。守備につき、ボールを構えたとき、掌に伝わる革の感触が、いつもより温かく感じられた。

打球が飛んできた瞬間、体が勝手に動いた。グローブに吸い込まれるように、ボールが収まる。捕った、と思うより先に、涙が出そうになった。まるで、兄と二人で、キャッチボールをしているようだった。

試合が終わって、空を見上げた。夏の雲が、ゆっくりと流れていく。あの日、公園で見た夕焼けと、よく似た色をしていた。心の中で、そっと呼びかけた。

「兄ちゃん、見ててくれた?」

答えは返ってこない。それでも、確かに誰かに見守られていたような、そんな温かさが、掌にはまだ残っていた。

グローブの中の文字は、今も色褪せたまま、そこにある。僕はこれからも、このグローブと一緒に、投げ続けていくつもりだ。兄が繋いでくれたこの一球一球を、大切に投げていきたいと思う。

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