【フリー朗読台本】芽が出たよ、と言いたくて|3分・1人用|癒しの女性ボイス練習に|声の書庫

日常・ほっこり

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約3分(約900字)
👤 登場人物:女性2名(語り手と隣の老婦人/1人読み用)
🎭 ジャンル:日常・ほっこり
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

隣のおばあさんからもらった、あさがおの種。植物なんていつも枯らしてばかりだった語り手が、半ば義務のように水をやり続けた、ある朝のお話です。事件らしい事件は、なにも起こりません。ただ、土の上に小さな双葉がふたつ顔を出した――それだけの、ささやかな朝の一場面を描いた日常台本です。

この作品の読みどころは、「たった二枚の葉っぱ」がもたらす、自分でも驚くほどの喜びが、静かに膨らんでいく過程にあります。芽が出たことを誰かに言いたくてたまらなくなる気持ち、そして毎朝の小さな積み重ねが報われる感覚を、聴く人もそっと一緒に味わえる一編です。

朗読は、声を張らず、朝のひかりのようにやわらかなトーンがよく合います。双葉を見つけた瞬間だけ、ほんの少し声をはずませて。あとは終始、穏やかに語りかけるように読み進めてみてください。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体は、朝のまだ静かな空気を保ったまま、抑えたやわらかい声で語ります。冒頭の「朝、七時。」は、深呼吸をひとつしてから、ゆっくりと。早起きの澄んだ空気感を、声のトーンで先に作ってあげると、聴き手がすっと物語に入れます。

② 緩急のつけ方

「土の上に、小さな緑が、ふたつ。」の前で、たっぷりと間を取ってください。ここが発見の瞬間です。続く「……出た」は、囁くように、思わず口からこぼれたように。逆に種をまく日々の描写は、淡々と流して構いません。

③ 感情表現のコツ

おばあさんへ報告する「双葉、出たんです」は、子どものように少しだけ声をはずませて。おばあさんの「あらあら。よかったねえ。」は、声を一段低く、ゆったりと包み込むように演じ分けると、二人の距離感が伝わります。

④ ラストの処理

「咲きましたよ」って。の一行は、未来への小さな約束です。明るく、けれど静かに。最後の「やわらかく揺れていた。」は息を残して消えるように読み終え、朝のひかりの余韻を置いてください。


台本本文

朝、七時。カーテンを開けると、まだ少し眠そうな色の空が広がっていた。

わたしはサンダルをつっかけて、ベランダに出る。手には、水を入れた小さなジョウロ。毎朝の、ほんの一分の習慣だ。

きっかけは、先月のことだった。隣のおばあさんが、紙の包みをひとつ、差し出してくれた。

「これ、あさがおの種。よかったら、植えてみて」

正直、自信はなかった。植物なんて、これまでずっと枯らしてばかりだったから。それでも断るのも悪い気がして、わたしは小さな鉢に土を入れ、言われたとおりに種をまいた。

それから毎朝、水をやった。半分は、義務みたいな気持ちで。土はずっと黒いまま、なんの変化もない。

——どうせ、出ないんだろうな。

そう思いはじめた、今朝のことだった。

ジョウロを傾けようとして、わたしは、思わず息をのんだ。

土の上に、小さな緑が、ふたつ。

双葉だった。豆粒みたいな葉っぱが二枚、ちょこんと顔を出している。昨日まで、なにもなかったはずなのに。

「……出た」

声が、もれた。

なんだろう、この気持ち。たった二枚の葉っぱなのに、胸の奥が、じんわりとあたたかい。

わたしは、誰かに言いたくなった。この小さな出来事を、誰かに、いますぐに。

サンダルのまま、わたしは隣の部屋のドアをノックした。

「おばあさん、あの、種、芽が出ました。双葉、出たんです」

ドアを開けたおばあさんは、寝起きの顔で、それでも、ふわりと笑ってくれた。

「あらあら。よかったねえ。ちゃんと、お世話したからよ」

お世話だなんて、たいしたことはしていない。ただ、毎朝、水をやっただけだ。

それでも、その「ただ」の積み重ねが、あの双葉になったのだと思うと——なんだか、自分のことも、少しだけ、好きになれそうな気がした。

部屋に戻って、もう一度、ベランダの鉢をのぞきこむ。

おはよう、と心の中でつぶやいてみる。

これから、夏に向かって、きみはどんどん伸びていくんだろう。つるを巻いて、葉を広げて、いつか、花を咲かせて。

そのときはまた、おばあさんに言いに行こう。

「咲きましたよ」って。

朝の光が、双葉の上で、やわらかく揺れていた。

今日も、いってきます。きみに見送られて、わたしは玄関のドアを開ける。

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