【無料・フリー台本】今度は、僕が手を離す|約5分・1人用(男性)|泣ける父の愛を演じたい男性に|声の書庫

感動・泣ける

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1,450字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:感動・泣ける
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

補助輪を外したばかりの息子に、自転車の乗り方を教える父親。サドルを支えて夕暮れのグラウンドを走るうちに、語り手の脳裏に、三十年前のある夕方がよみがえります。あの日、自分のうしろを走り、そっと手を離してくれたのは、もういない父でした。親から子へ、静かに受け継がれていく「手を離す瞬間」を描いた、約5分の朗読台本です。

この作品の読みどころは、「支える側」と「支えられる側」が、三十年の時を隔てて静かに反転していく構成にあります。かつて父に手を離してもらった少年が、いま父となり、わが子の手を離す。同じ夕暮れ、同じ誇らしさ、同じ寂しさが、世代を越えて重なり合う瞬間を、ぜひ味わってみてください。

朗読の際は、感情を張り上げず、思い出を一つひとつ確かめるような落ち着いた語り口がおすすめです。父のセリフは声を作りすぎず、低くかすれた響きをほんの少し添えるだけで、十分に温度が伝わります。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

語り手は三十代後半から四十代の父親です。全体は、やや低めの落ち着いた声で、わが子を見守る穏やかさを基調に読んでください。冒頭の「今日、補助輪を外した」は、淡々と、けれど少し誇らしげに。感傷を先に出さず、まずは温かい日常の景色として立ち上げるのがコツです。

② 緩急のつけ方

「そのとき、ふいに、三十年前の夕方が、よみがえった」の一文で、はっきりと間を取り、声の温度を一段下げて回想へ切り替えます。父のセリフ「ああ、持ってるとも。離すもんか」は、低くかすれた声で、ぶっきらぼうに。逆に「漕げっ! そのまま漕げ!」は、唯一声を張る場面。ここだけは思いきり張り上げてください。

③ 感情表現のコツ

山場は「父はもう、いない。去年の冬に、逝ってしまった」の段落です。涙声にせず、あえて静かに、事実をそっと置くように読むほうが胸に迫ります。「父さん、ちゃんと持ってる?」「ああ、持ってるよ」の自問自答は、声色をわずかに変えるだけにとどめ、直後の「嘘をついた」で一拍、沈黙を置きましょう。

④ ラストの処理

結びの「いつまでも、いつまでも、手を振っていた」は、繰り返しをゆっくりと、語尾を空気に溶かすように消えていかせます。最後の一行を読み終えたあと、二〜三秒、無音を残してから録音を止めると、夕暮れの余韻がそのまま聴き手に残ります。


台本本文

公園の、夕暮れ。土のグラウンドに、子ども用自転車の細いタイヤが、頼りない線を一本、引いていく。

今日、補助輪を外した。朝からそわそわしていた息子は、夕方になってようやく「やる」と言った。怖いんだろう。何度も転ぶことになるのも、わかっているんだろう。私にも、その気持ちは、痛いほどよくわかる。

「父さん、まだ持ってて。離さないでよ」

息子がハンドルを握りしめたまま、振り向きもせずに言う。私はサドルの後ろをしっかり掴んで、ああ、と返す。離さないよ、と。

よし、いくぞ。声をかけて、私たちは走り出した。私は腰をかがめ、よたよたと進む小さな自転車のうしろを、いっしょに走る。砂を踏む音。子どもの荒い息づかい。揺れる背中。ハンドルが右へ左へ振れるたび、私の腕にも、つい力がこもる。

そのとき、ふいに、三十年前の夕方が、よみがえった。

あのとき、ペダルを踏んでいたのは、私だった。そして、サドルを掴んで走っていたのは、父だった。

「父さん、持ってる? 離さないでよ」
「ああ、持ってるとも。離すもんか」

そう言った父の声を、私は今でも覚えている。低くて、少しかすれた、あの声。その声に背中を預けて、私は夢中でペダルを漕いだ。父がいる。うしろに、ちゃんといる。それだけで、不思議と、怖さは消えていった。

風が頬を切った。タイヤが地面を噛んだ。世界が、うしろへ、うしろへと流れていく。

どれくらい走っただろう。ふと、自分の自転車が、やけに軽いことに気づいた。サドルを支える、あの手の重みが、いつのまにか、ない。

おそるおそる、うしろを振り返る。

父は、ずっと後方にいた。膝に手をついて、肩で大きく息をして、それでも、笑っていた。——とっくに、手を離していたのだ。私が気づかないうちに、そっと、そして、何も言わずに。

「漕げっ! そのまま漕げ!」

父の声が、夕陽の中で響いた。私は転びそうになりながら、それでも足を止めず、漕ぎつづけた。あのとき生まれて初めて、自分の力で前に進んでいるんだ、と知った。あの誇らしさを、今でも、はっきりと覚えている。

——父さん。

父はもう、いない。去年の冬に、逝ってしまった。最後まで、口下手な人だった。「がんばれ」も「えらいぞ」も、面と向かっては、ろくに言えない人だった。けれど、あの日うしろで手を離してくれた、その背中の温もりを、私はずっと忘れていない。

私は今、息子のサドルを掴んでいる。三十年前、あなたが私にそうしてくれたように。手のひらに伝わる、小さな振動。この子の、必死さ。

「父さん、ちゃんと持ってる?」
「ああ、持ってるよ」

嘘をついた。私の手は、もう、サドルから離れている。

息子は、まだ気づかない。小さな背中が、ぐんぐんと前へ進んでいく。揺れて、ふらついて、それでも、倒れない。自分の足で、地面を蹴って、進んでいく。

遠ざかっていく背中を見つめながら、私は、立ち止まった。膝に手をつき、肩で息をする。——きっと、あのときの父も、こんな顔をしていたのだろう。こんなふうに、誇らしくて、そして、ほんの少しだけ、寂しい顔を。

子どもは、いつか、ひとりで進んでいく。親の手を離れて、どんどん遠くへ。それは、きっと、いいことなのだ。寂しいけれど、いいことなのだ。

夕焼けが、グラウンド一面を、あかね色に染めている。

——父さん。今度は、僕の番だったよ。うまく、手を離せたかな。ちゃんと、見ててくれたかな。

子どもの自転車が、夕陽の向こうで、小さく、小さくなっていく。

私は、その背中が見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも、手を振っていた。

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