【フリー朗読台本】届くはずのない、荷物|10分・1人用|静かな恐怖を味わいたい方へ|声の書庫

ミステリー・サスペンス

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約10分(約3000字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ミステリー・サスペンス
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

単身者向けマンションの宅配ボックスに、差出人の記載がない荷物が届き始めることから始まる物語です。中身はどれも些細な日用品ですが、届くたびにその日の自分の行動と奇妙に符合していきます。

本作の読みどころは、「便利」から「不気味」へと感情が反転していく過程を、派手な事件を起こさずに描いている点です。荷物という日常的なモチーフだからこそ、じわじわとした違和感が際立ちます。

朗読の際は、前半は淡々とした報告口調、後半にかけて徐々に言葉の間を詰めていくような、緊張感を積み上げる読み方が合います。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

序盤は、日々の出来事を淡々と報告するような、落ち着いたトーンで読んでください。違和感はまだ「気のせい」の範囲に留めておくことが大切です。

② 緩急のつけ方

「開けてすぐに気づいた。今日、なくしたと思っていた、あの鍵だった」という一文では、あえて言葉と言葉の間を詰めず、一拍置いてから続けてください。読み手の戸惑いがそのまま聞き手に伝わります。

③ 感情表現のコツ

終盤、荷物の伝票に自分の筆跡を見つける場面では、驚きよりも「認めたくない」という抑制された動揺を声に滲ませてください。取り乱すより効果的です。

④ ラストの処理

最後の一文は、声量を落として、確認するように静かに読み終えてください。答えを言い切らず、余白を残すイメージです。


台本本文

宅配ボックスに、差出人不明の荷物が届くようになったのは、先月の半ばからだった。

最初は気にも留めなかった。伝票の差出人欄は空白で、注文した覚えもない品物が、当たり前のように箱の中に入っている。使い切ったばかりの歯ブラシ、切れていた電池、そして、なくしたと思っていた家の鍵。

開けてすぐに気づいた。今日、なくしたと思っていた、あの鍵だった。落としたはずの場所を何度も探した。見つからなかった。それが今、荷物の中に、当たり前のように収まっている。

「便利だな」と、最初はそう思っていた。忙しい日々の中で、必要なものが必要なタイミングで届く。まるで誰かが自分の生活を先回りして、整えてくれているようだった。

けれど、荷物は次第に、必要になる前に届くようになった。

会議の資料を忘れたと気づく前に、印刷済みの束が届いていた。財布を落とす前日に、同じ財布が新品で届いていた。まるで、これから起こることを、誰かがあらかじめ知っているかのように。

気味が悪くなって、管理会社に問い合わせた。宅配ボックスの利用履歴には、確かに配達の記録が残っていた。だが、配達業者の名前も、送り主の名前も、記録のどこにも見当たらなかった。

今夜、いつものように宅配ボックスを開けた。中には一枚の紙と、小さな箱が入っていた。紙には、明日の日付と、これから自分が向かうはずの場所が、几帳面な字で書かれていた。

その筆跡に、見覚えがあった。

何年も前、まだ実家にいた頃に自分が書いていた字と、驚くほどよく似ていた。癖のある「そ」の字、右上がりの数字。忘れていたはずの、自分自身の筆跡だった。

伝票の受取人サインの欄には、既にサインが済んでいた。

自分の字で、自分の名前が。

まだ、荷物を受け取ってすらいないのに。

紙をそっと畳んで、箱を開けた。中には、何も入っていなかった。ただ、底に小さく、これからの日付がいくつも並んで書かれていた。

明日、自分がどこで何をするのか。それはもう、自分で決めることではないのかもしれない。宅配ボックスの扉を閉めながら、そんなことを思った。

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