📖 この台本について
⏱ 読了時間:約7分(約2050字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ミステリー・サスペンス
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
深夜のコンビニに置かれた、誰も使わないはずの「ご意見箱」。そこに毎週金曜、差出人不明のメモが入るようになったところから物語は始まります。日常の些細な予言から、やがて主人公自身の身に起きることまでを言い当てるようになるメモに、静かな違和感が積み重なっていきます。
本作の読みどころは、派手な出来事が何も起きないまま、恐怖の輪郭だけが少しずつ濃くなっていく構成にございます。事件らしい事件は起きず、真相も明かされません。読み手の想像力に委ねられる余白の多さが、この作品の持ち味と言えるでしょう。
朗読される際は、感情を大きく揺らさず、淡々とした語り口を保っていただくのが効果的です。特にメモの文面を読み上げる箇所は、抑揚を抑えることで不気味さが際立つ構成になっております。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して、驚いたり怖がったりする感情をあまり表に出さず、淡々と状況を報告するような声で読むと効果的です。事実を淡々と述べるトーンが、じわじわとした不気味さを引き立てます。
② 緩急のつけ方
「次は、もっと近くで見ています」の一文は、直前で少し間を取ってから、抑えた声でゆっくり読むと緊張感が増します。逆に「店内の照明が、ふっと落ちた。」の直後は一拍長めの沈黙を置き、読み手も客も同じ暗闇にいるような感覚を作ってください。
③ 感情表現のコツ
停電のシーンでは、声を張り上げず、むしろ小さく震えるような声にすることで恐怖が伝わりやすくなります。感情のピークほど声量を落とすイメージです。
④ ラストの処理
最後の一文「私は最後にもう一度だけ、意見箱のほうを振り返った。」は、読み終えたあとも少し余韻を残すように、語尾を強く切らずふっと消えるように読み終えると、聴き手の中に不安が残ります。
台本本文
深夜二時、コンビニの蛍光灯が単調な音を立てている。人通りの絶えた国道沿いの店内で、聞こえるのは冷蔵ケースのモーター音と、時折通り過ぎる車のヘッドライトだけだった。レジ横に置かれた木箱――「ご意見箱」というのは、この店ができた五年前からずっと形だけの存在だった。お客様の声、なんて誰も書かない。防犯カメラの死角になっている棚の隅に、埃をかぶって置かれているだけの、忘れられた箱。
それに気づいたのは、三か月前のことだった。
金曜の深夜、いつものように閉店後の集計を終えて、何気なく意見箱の投入口を覗いたら、折りたたまれた一枚のメモが入っていた。防犯カメラの映像を巻き戻して確認したけれど、投函する人物は映っていなかった。まるで、最初からそこにあったかのように。
メモにはただ、こう書かれていた。
「明日の夜、傘立てに忘れ物があります」
いたずらだと思った。同僚の誰かが暇つぶしにやっているのだろう、と。だが翌日の閉店間際、本当に傘立てに一本の傘が残されていた。誰も傘を持って入店した客はいなかったはずなのに。
それから毎週金曜、同じ筆跡のメモが入るようになった。内容はいつも些細なことだった。「レジ横の陳列を直したほうがいい」「明日は雨で客足が減る」「深夜二時に、体調の悪そうな男性客が来る」。どれも、当たっていた。まるで店の一週間を先取りするように。
私は誰にも言わなかった。同僚の田村さんに軽く探りを入れてみたこともあったけれど、彼女は意見箱の存在すら覚えていなかった。言ったところで、信じてもらえるとは思えなかった。それに――正直、少し楽しみになっていた自分がいた。次はどんなメモが入っているのだろう、と。まるで誰かと文通をしているような、そんな奇妙な感覚があった。
一度だけ、メモの主が実在するのかもしれないと思った出来事があった。深夜三時、いつも通り店内に客の姿はなかったはずなのに、ふと自動ドアのセンサー音が鳴った。振り返っても、誰も入ってこない。レジのモニターを確認すると、ドアの前に一瞬だけ、人の形をした影が映り込んでいた。次の瞬間には消えていた。見間違いだと思うことにした。そうするしかなかった。
けれど三週間前の金曜、メモの内容が変わった。
「今夜、あなたは体調を崩します」
読んだ瞬間、背筋が冷えた。今までのメモは、店や客についてのことだった。私自身について書かれたのは、初めてだった。誰が、何のために。頭の中で理由を探したけれど、答えは出なかった。
その夜、閉店作業の途中で、突然強い目眩に襲われた。視界が歪んで、私はレジ裏でしゃがみこんだ。幸い大事には至らなかったけれど、しばらく立ち上がれなかった。冷たい床の感触だけが、やけにはっきりと残っている。
偶然だと自分に言い聞かせた。忙しさで体調を崩すことくらい、誰にでもある。けれど次の金曜、意見箱を覗く手はどうしようもなく震えていた。
メモには、こう書かれていた。
「次は、もっと近くで見ています」
その日から、誰かに見られている気がして仕方なくなった。深夜の店内、防犯カメラの死角、レジの奥、バックヤードの暗がり――視線を感じるたびに振り返るけれど、そこには誰もいない。冷蔵ケースのガラスに映る自分の背後を、何度も確かめた。
先週の金曜、いつものように意見箱を覗くと、中には一枚のメモが入っていた。折りたたまれたそれを開こうとした、その瞬間――
店内の照明が、ふっと落ちた。
停電だった。真っ暗な店内で、私は手探りでメモを握りしめたまま、身動きが取れずにいた。心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。数十秒後、電気は何事もなかったように戻った。
けれど、手の中のメモは、真っ白だった。何も書かれていない、ただの紙切れになっていた。あれほど確かに感じた文字の重みが、跡形もなく消えていた。
それから一週間、意見箱には何も入っていない。田村さんに聞いても、変わったことは何もないという。防犯カメラの映像を何度見返しても、不審な人物どころか、意見箱に近づく人影すら映っていなかった。
今夜も、私は閉店作業を終えて、意見箱の前に立っている。投入口を覗き込む。何もない。ほっとしたような、それでいて何かが物足りないような、複雑な気持ちで箱の蓋を閉じようとした。
けれど、木箱の底に、うっすらと折り目の跡が残っていることに気づいた。まるで、何かがそこに畳まれて置かれていたことを示すように。指でなぞると、紙の繊維の感触だけが、確かにそこにあった。
次のメモは、いつ届くのだろう。それとも――もう、届いているのに、私が気づいていないだけなのだろうか。
田村さんが出勤してきて、いつも通りの挨拶を交わす。何も知らない彼女の声が、やけに遠くから聞こえるように感じた。私は意見箱の蓋をそっと閉め、何事もなかったようにレジに戻る。
蛍光灯の音が、今夜も変わらずに響いている。その規則正しい音の向こうで、誰かが静かにこちらを見ているような気がして、私は最後にもう一度だけ、意見箱のほうを振り返った。
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