【無料・フリー台本】その電話は、切れなかった|10分・1人用|静かな恐怖を演じたい人へ|声の書庫

ホラー/怪談

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約10分(3000字)
👤 登場人物:性別不問1名(1人用)
🎭 ジャンル:ミステリー・サスペンス
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

三年前に亡くなったはずの友人から、電話がかかってきた。しかもその電話は、切ろうとしても切れない——そんな一夜の出来事を、語り手が震えながら記録していくサスペンス台本です。超常現象を派手に描くのではなく、「なぜ切れないのか」「あの声は本当に彼女だったのか」という問いを積み重ねながら、じわじわと追い詰められていく心理を丁寧に描きました。

この作品の特徴は、「聴覚」だけを通じて恐怖が伝わってくる構造にあります。読み手の声がそのまま「聞こえてくる電話の声」と重なるため、朗読という形式との親和性がきわめて高い台本です。電話口から何が聞こえてきたのか、聴き手それぞれが想像する余白を意図的に残しています。

朗読の際は、語り手が「記録しながら混乱している」という状態を意識してください。パニックにはなっていないけれど、明らかに正常ではない——そのギリギリの均衡を、抑えた語り口で表現することが、この台本の核心です。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全編を通じて「震えを抑えながら冷静に状況を記録しようとしている人物」を演じてください。感情を爆発させるのではなく、声の奥に静かな動揺を滲ませる表現が効果的です。「淡々と、でも微かに息が乱れている」という状態を意識すると、この台本の緊張感が最大限に引き出せます。

② 緩急のつけ方

「電話は、まだ繋がっていた」「切れない、切れない、切れない」のような繰り返しの箇所は、あえてテンポを落としてゆっくり読んでください。逆に「その声が、私の名前を呼んだ」という転換点では、直前に短い間を置いてから読み始めると、聴き手の息を止める効果が生まれます。

③ 感情表現のコツ

電話口の「声」を描写する場面は、語り手自身が聴きながら再現しているという二重構造になっています。その声を「引用している」感覚で、わずかにトーンを変えて読むと、現実と記憶が混濁している雰囲気が伝わります。ただし過度な演技は禁物で、囁くような抑制が最も怖さを生みます。

④ ラストの処理

最後の一文は、答えを出さずに終わります。読み終えた後に長めの間を取り、ゆっくりと息を吐くように声を細めながら締めてください。「余韻」こそがこの台本の結末であるため、終わった後の沈黙も朗読の一部として意識してみてください。


── 台本本文 ──

これを書いているのは、あの夜から三日後だ。まだ手が少し震えている。でも記録しておかなければと思って、こうして書いている。

電話がかかってきたのは、木曜日の夜、十一時を少し過ぎたころだった。画面には見覚えのない番号が表示されていた。市外局番もなく、ただ十一桁の数字が並んでいるだけで、どこの番号なのかまったく見当がつかなかった。

普段なら知らない番号には出ない。詐欺や営業の電話だろうと思って無視する。でもそのときは、なぜか出てしまった。今でも、なぜ出たのかわからない。何かに引き寄せられるようにして、画面をタップしていた。

最初は無音だった。繋がっているのかどうかもわからないくらい、静かだった。私は「もしもし」と言った。返事はなかった。もう一度言った。やはり何も聞こえなかった。通話を切ろうとして、画面に触れた。

切れなかった。

終話ボタンを押しても、通話は続いていた。画面の表示は「通話中」のまま、秒数だけが淡々と増えていく。おかしいと思って、もう一度押した。切れない。電源を落とそうとしたが、電源ボタンも反応しなかった。スマートフォンが、まるで私の意思とは無関係に動いているようだった。

そのとき、声が聞こえた。

遠くから、水の底から話しているような、くぐもった声だった。最初は何を言っているのかわからなかった。でもしばらく耳を澄ませていると、言葉が浮かび上がってきた。私の名前を、呼んでいた。

その声を聴いた瞬間、全身の血が冷えた。

三年前に死んだ、幼馴染の声だった。

彼女とは小学校からの付き合いで、大学もたまたま同じところに進んだ。二十四歳の冬に、交通事故で亡くなった。葬儀にも行った。棺の中の顔も見た。だから、死んでいることは確かなのだ。確かなはずなのだ。でも電話の向こうの声は、間違いなく彼女だった。声の質も、話し方の癖も、私の名前を呼ぶときのわずかな上がり方も、すべてが彼女だった。

私は「誰ですか」と聞いた。声が出るか心配だったが、意外と普通に言葉が出た。

電話の向こうで、少し間があった。それから彼女の声が、また私の名前を呼んだ。今度は、もっとはっきりと。

私は立ち上がって部屋の中を歩き回った。何かをしていないと、正気を保てない気がした。キッチンに行って水を飲んだ。水道から出した水は冷たかったが、飲んでいる感覚がほとんどなかった。電話はずっと繋がったままで、向こうから声が続いていた。私の名前ではなく、今度は別の言葉だった。

「来て」と、彼女の声は言った。

どこへ、とは言わなかった。ただ「来て」とだけ繰り返した。三回、四回、五回。私は聞こえないふりをして、テーブルの上のリモコンを手に取ったり置いたりしていた。テレビをつけた。音が出た。バラエティ番組の笑い声が部屋に広がった。でも電話の声は、その上から聞こえ続けた。

一時間が経った。通話秒数は三千六百を超えていた。私は床に座り込んで、壁にもたれていた。電話を持つ手がだるくて、膝の上に置いた。スピーカーにしようとしたが、ボタンが反応しなかった。

彼女の声は変わっていた。最初の「来て」ではなくなっていた。もっと長い文章を話していた。聞き取れる部分と、聞き取れない部分がある。聞き取れた言葉を、私は頭の中で繰り返した。「あのとき」「一緒に」「まだ」「忘れてない」。断片的な言葉が、意味をなさないまま積み重なっていった。

二時間が経ったとき、声が変わった。

それまでは遠くから話しているような音だったのに、急に近くなった。まるで耳のすぐそばに口を当てているような距離感だった。私は思わずスマートフォンを顔から離した。息が止まりそうだった。

彼女の声は、ゆっくりと言った。

「もう来なくていい」

それだけだった。

その瞬間、通話が切れた。画面は真っ暗になり、電源ボタンを押すと普通に起動した。時刻は午前一時を過ぎていた。二時間以上、繋がっていたことになる。

私はしばらく動けなかった。床の上に座ったまま、窓の外の暗闇を見ていた。

翌日、あの番号に電話をかけてみた。「おかけになった番号は、現在使われておりません」というアナウンスが流れた。着信履歴にはその番号が残っていたが、逆電話帳で調べても何も出てこなかった。

「もう来なくていい」というのは、どういう意味だったのだろう。最初から来るつもりなどなかった。でも彼女がそう言ったということは、私がいつか行こうとするかもしれないと、彼女は思っていたのだろうか。それとも、これは警告だったのだろうか。

三日経った今も、答えはわからない。

ただひとつだけ確かなことがある。あの夜以来、私は彼女のことを夢で見ていない。三年間、ときどき夢に出てきていた彼女が、あの電話の夜を境に、一度も現れなくなった。

それが何を意味するのか、私にはわからない。

わからないまま、今夜も電話を手元に置いて眠る。

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