【無料・フリー台本】あの家には、まだいる|15分・1人用|怖い話が好きな朗読初心者へ|声の書庫

ホラー/怪談

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約15分(4,500字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー/怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
📋 ご利用規約:こちらをご確認ください


作品について

幼い頃に引っ越した古い一軒家。そこで体験したできごとを、大人になった語り手が静かに振り返る怪談台本です。「気のせいだ」と言い聞かせながらも拭えない違和感が積み重なり、やがて取り返しのつかない真実へとたどり着く——そんな構成で、じわじわと恐怖が忍び込んでくる作品です。

この作品の最大の特徴は、派手な演出に頼らず「日常の中の異常」を丁寧に積み上げていく怖さにあります。血や叫び声ではなく、「また聞こえた」「また動いていた」という静かな積み重ねが、読み手にも聴き手にも確実に染み込んでいきます。怪談が好きな方はもちろん、「静かに怖い話を読みたい」という朗読者にも向いています。

朗読する際は、終始落ち着いたトーンを保つことを意識してください。怖がらせようとして声を張ると、かえって怖さが薄れます。語り手はすでにすべてを経験し、それを淡々と話している——そのスタンスで読むことで、聴き手の想像力を最大限に引き出せます。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全編を通じて「回想している大人の女性」として読んでください。感情を前に出しすぎず、むしろ抑えたトーンが効果的です。「あの家には、何かがいた。今でもそう思っている」という冒頭のように、断言しながらも淡々と語る——その静けさが怖さの土台になります。

② 緩急のつけ方

「足音がした。二階から、確かに」のような短い文は、前後に間を置いてゆっくり読みます。一方、記憶を辿る長い地の文は、やや早めに流すことでメリハリが生まれます。怪異が起きる瞬間の直前に、意図的に0.5〜1秒の沈黙を入れると効果的です。

③ 感情表現のコツ

クライマックスの「扉の向こうに、母の顔をしたものが立っていた」は、感情を爆発させるのではなく、声をわずかに低く落として読んでください。囁くように、でも明瞭に。その矛盾した表現が、最も聴き手の背筋を寒くさせます。

④ ラストの処理

ラストの一文は、読み終えた後に数秒の余白を置いてください。BGMがある場合もフェードアウトを急がず、沈黙を音として使う意識で締めくくると、余韻が長く残ります。


台本本文

あの家には、何かがいた。今でもそう思っている。

私が小学三年生の春、家族は祖母の残した古い一軒家に引っ越した。築四十年を超える木造の家で、廊下を歩くたびに床がみしみしと鳴った。父は「味があっていい」と笑っていたけれど、母はあまり気に入っていないようだった。私はというと——正直、最初から、その家が怖かった。

理由はうまく言えない。ただ、玄関の引き戸を開けるたびに、中からひんやりした空気が流れ出てきた。夏でもそうだった。エアコンのない家だったから、余計に不思議だと思っていた。

最初に気づいたのは、引っ越して一週間ほど経った夜のことだ。

私の部屋は二階の奥、階段を上がって突き当たりにあった。隣は物置として使っていた空き部屋で、窓に古い木の雨戸がついていた。その夜、私はその雨戸がかたかたと揺れる音で目を覚ました。

風が強いのかと思った。でも、カーテンは揺れていなかった。窓は閉まっていた。音は隣の部屋からだった。

私はしばらく布団の中で耳を澄ませた。かたかた、かたかた——規則的なその音は、しばらくして止んだ。私はそのまま眠った。翌朝、母に話すと、「古い家だからね」と言われた。父は「木が収縮する音だよ」と教えてくれた。そうかもしれない、と思った。

けれど、その後も音は続いた。

毎晩ではなかった。三日に一度、あるいは四日に一度。決まって深夜の二時ごろ、隣の部屋から、あのかたかたという音が聞こえてきた。私は次第に慣れていった。慣れてしまうことが、今思えば怖い。

異変が本格的になったのは、梅雨に入ったころだった。

ある朝、目が覚めると、勉強机の上に置いていたはずの消しゴムがなかった。前日に使ったのは確かだった。机の下も、床も探したけれど、見つからなかった。仕方なく新しいものを使い、しばらくして忘れた。

次の週、今度は本棚の本が一冊、逆さまに挿してあった。私はそういうことをする習慣がなかったし、母も父も私の部屋にはほとんど入らない。弟はまだ幼くて、二階には上がれなかった。

誰がやったのか。

わからなかった。そして、わからないまま、また忘れた。

七月に入ると、私は廊下で人影を見るようになった。

最初は寝ぼけていると思った。夜中にトイレへ行こうとして廊下に出ると、階段の上の方に、誰かが立っているように見えた。でも、電気をつけると何もなかった。私はすぐに引き返した。

二度目は夕方だった。宿題をしていて、ふと部屋のドアの隙間から廊下を見ると、何かが横切った。人の形をした、黒い何かが。私はドアを閉めた。心臓が痛いくらいに跳ねていた。それでも私は、気のせいだと思おうとした。

気のせいにできなくなったのは、八月の終わりのことだ。

その夜、私は珍しく早く眠れた。夢も見なかった。でも、深夜の二時ごろ、また目が覚めた。隣の部屋の音ではなかった。今度は、足音だった。

足音がした。二階から、確かに。

でも、二階には私の部屋しかない。物置は人が歩けるような場所ではなかったし、その夜、私はずっとベッドの中にいた。

足音は廊下を、ゆっくりと歩いていた。私の部屋へ向かって、近づいてきた。

私は布団を頭まで被って、息を止めた。ドアの前で足音が止まった。ドアノブが、ゆっくりと動いた。

私は声を出せなかった。布団の中で目を固く閉じた。ドアが開く音がした。誰かが部屋に入ってきた。足音が近づいてきた。ベッドの脇で、止まった。

しばらく、何も起きなかった。

気が遠くなりそうなほど長い時間が経ってから、足音がまた遠ざかっていった。廊下を歩いて、階段を下りて、聞こえなくなった。

翌朝、私は両親に話した。父は真剣な顔で家中を確認したが、不審な点は何もなかった。窓も鍵もすべて閉まっていた。誰かが入ってきた形跡はなかった。

「夢を見たんじゃないか」と父は言った。「怖い思いをさせてごめんな」と母は言った。

夢ではなかった。でも、私にはもうそれ以上言えなかった。

九月になると、母の様子がおかしくなった。

最初は小さなことだった。母がぼんやりしていることが増えた。話しかけても反応が遅かった。食事の味が変わった——薄くなったり、逆にひどく濃くなったり。夜中に台所に立っていることがあった。声をかけると振り返るのだが、その顔がなんとなく、いつもと違う気がした。

気がした、というだけだ。顔のつくりは同じだった。声も同じだった。でも、何かが、違った。

ある夜、私はまた目が覚めた。喉が渇いて、台所へ水を飲みに行こうとした。廊下に出ると、階段の下の方から明かりが見えた。台所の電気がついていた。

また母かと思いながら階段を下りた。台所の入り口まで来て、私は足を止めた。

扉の向こうに、母の顔をしたものが立っていた。

母だった。でも、母ではなかった。立ち方が違った。じっとこちらを見ている目が、違った。口元が、わずかに、笑っていた。母がそんなふうに笑うのを、私は見たことがなかった。

私は何も言えなかった。それも何も言えなかった。どれくらいそうしていたか、わからない。やがてそれは、ゆっくりと顔を正面に戻し、台所の奥へ歩いていった。電気が消えた。

翌朝、母はいつも通りだった。夜中に起きたことを覚えていないようだった。私は何も言わなかった。

その翌週、父の転勤が決まり、私たちはその家を出た。

引っ越しの日、私は振り返って家を見た。二階の物置の窓に、雨戸が閉まっていた。その隙間から、誰かがこちらを見ているような気がした。でも、確かめなかった。確かめたくなかった。

あの家には、何かがいた。

そして今も、あの家には、まだいると思う。

同じジャンルの関連台本

ホラー/怪談系の台本をもっと探したい方は、以下もあわせてご覧ください。

リクエストや感想はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました