【フリー朗読台本】真上の部屋|5分・1人用|低い声で語る怪談を探す人へ|声の書庫

ホラー/怪談

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1,500字)
👤 登場人物:男女どちらでも可・1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー/怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

築四十年のアパートの一階に越してきた「私」。最初の夜から、天井の上で誰かが歩く音が聞こえはじめます。やがてその足音は、私の動きをなぞるように同じ方向へ動きはじめ、不動産屋に問い合わせた電話の一言から、静かに足元が崩れていきます。日常のすぐ隣にある異質さを、淡々とした一人称で描いた怪談です。

この作品の核にあるのは、「音だけで距離が縮まっていく」という構成です。派手な現象も叫び声もありません。ただ天井の足音が一歩ずつ近づき、最後にその距離がゼロになる――その過程の積み重ねだけで恐怖を立ち上げています。読み手の「間」の取り方がそのまま怖さに直結する一本です。

朗読は、終始抑えた低めのトーンでお願いします。感情を込めるより、努めて冷静に語ることで、語り手自身が事態を理解しきれていない不気味さが生まれます。ラストの囁きだけ、声を一段落として演じると効果的です。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、淡々と、低めの声で読んでください。語り手は怖がっているのではなく、起きていることを冷静に記録しているような口調が理想です。「ああ、上の人が帰ってきたんだな、と思った」のあたりは、本当に何でもないことのように、軽く流してください。その油断が後半で効いてきます。

② 緩急のつけ方

「とん、とん、と。」の足音は、一音ずつ間を取り、急がず置いていくように読みます。不動産屋の「もう三年、どなたも入っていません」の前後では、一呼吸たっぷり沈黙を入れてください。読み手が黙る時間が、そのまま聞き手の背筋を冷やします。

③ 感情表現のコツ

クライマックスでも声を張らないこと。「やっと、おなじ高さに、なれた」は、囁くように、息だけで届けるつもりで。大きくするのではなく、むしろ小さく、近くすることで、耳もとに迫る感覚が出ます。

④ ラストの処理

最後の「ゆっくりと、布団のほうへ、降りてくる。」は、言い切らず、わずかに余韻を残して消えるように。読み終えたあと、二、三秒の沈黙を置いてから録音を止めると、聞き手に「まだ続いている」感覚が残ります。


台本本文

引っ越してきたのは、築四十年のアパートの一階だった。家賃が相場より安いのは、日当たりが悪いせいだと聞いていた。それでも、ひとり暮らしを始めたばかりの私には、十分すぎる部屋だった。

最初の夜、天井から足音がした。とん、とん、と。ゆっくり歩く音。ああ、上の人が帰ってきたんだな、と思った。ただ、それだけのことだった。

おかしいと気づいたのは、一週間ほど経った頃だ。私が台所へ立つと、真上でも誰かが立ち上がる。私が窓辺へ歩けば、上の足音も同じ方へ動く。私がテレビの前に座れば、上も、ことり、と腰を下ろす。まるで、私の動きを、なぞるように。

気のせいだ。そう自分に言い聞かせた。古い建物だから、音が反響して、自分の足音が天井から返ってきているだけ。そう思えば、なんてことはない。眠れない夜が続いただけのことだ。

それでも、念のため、不動産屋に電話をかけた。上の部屋の方は、どんな方ですか、と。受話器の向こうで、担当者は少し黙ってから、こう答えた。

「お客様……二階は、ずっと空室ですよ。もう三年、どなたも入っていません」

その夜から、私は足音を数えるようになった。私が一歩あるけば、上で一歩。私が止まれば、上も、ぴたりと止まる。

ある晩、ためしに、わざと変な歩き方をしてみた。右、右、左、と、でたらめに。すると真上の足音も、右、右、左、と、寸分たがわず、ついてきた。背中が、すっと冷たくなった。

私は布団にもぐりこんで、息をひそめた。動かなければ、向こうも動かない。きっと、そうだ。そう、自分に言い聞かせた。

けれど、その夜は、違った。天井の足音が、ゆっくりと、部屋の真ん中へ向かって歩いてくる。とん。とん。とん。そして、ちょうど、私の寝ている、その真上で、止まった。

しんと静まりかえった部屋で、私は天井を見上げていた。何も、起きなかった。ただ、長い、長い静寂だけがあった。

やがて、聞こえた。天井の、すぐ向こう側から。床板を、爪で、そっと引っかくような音。かり、かり、と。

それから、囁くような声がした。天井からではなく。すぐ近くで。私の、耳もとで。

「やっと、おなじ高さに、なれた」

私はもう、上を見ていない。見られない。布団の中で、ただ、息だけをしている。

朝になれば、消えてくれるだろうか。

足音は、まだ、私の真上にある。そして、ゆっくりと、布団のほうへ、降りてくる。

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