【フリー朗読台本】余分な一枚|5分・1人用|静かな恐怖を演じたい人へ|声の書庫

ミステリー・サスペンス

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1,400字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ミステリー・サスペンス
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

祖母の遺品から出てきた古いフィルムカメラ。残りのコマを撮り終え、近所の写真屋に現像を頼んだ語り手のもとへ、ありえないはずの「一枚」が届きます。三十六枚撮りのフィルムに、なぜか紛れ込んでいた三十七枚目。それは、誰かが外側から撮ったとしか思えない、自分の部屋の玄関でした。

この作品の特徴は、声を荒げる恐怖ではなく、日常の細部がじわじわと裏返っていく静かな不安にあります。説明されない出来事を、語り手が一つひとつ確かめていく過程そのものが、聴き手の足元を少しずつ崩していきます。

朗読では、終始抑えた落ち着いたトーンを保つのが効果的です。淡々と日常を語る声から、ほんのわずかに体温を引いていくように読むことで、ラストの一音がより深く残ります。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、感情を込めすぎず、淡々と事実を述べる声で読むのが効果的です。「なんでもない、ただの日々の断片だ」のような前半部分は、穏やかで日常的なトーンで。恐怖を演出しようと力むほど、かえって作品の冷たさが薄れてしまいます。あくまで「報告するように」読むのがコツです。

② 緩急のつけ方

「三十七枚目があった。」の一行は、直前で一拍はっきりと間を取ってから、声を一段低く落として読んでください。説明的な箇所は普段の速さで流し、異常が顔を出す瞬間だけ、速度を落として聴き手を立ち止まらせます。

③ 感情表現のコツ

「ない写真は、焼きようがない」という店主の言葉は、語り手ではなく他人の声として、ほんの少しだけ質感を変えると効果的です。語り手自身の不安は、声を震わせるのではなく、囁くように音量を絞ることで表現します。

④ ラストの処理

「カシャ、と。」は、急がず、ひとつだけ置くように発音してください。最後の「考えながら。」は声を完全に消し入らせ、余韻のために2〜3秒の沈黙を残してから終えると、聴き手の中に不安が長く居座ります。


台本本文

写真というものを、紙で受け取るのはずいぶん久しぶりだった。

きっかけは、祖母の遺品整理だった。簞笥の奥から、古いフィルムカメラが出てきた。巻き上げレバーを回すと、まだ半分ほど撮り終えていない感触がある。捨てるのも忍びなくて、残りのコマを私が撮ることにした。

台所の窓から見える夕方の空。ベランダの、しおれかけたゼラニウムの鉢。陽だまりで眠っている飼い猫の背中。なんでもない、ただの日々の断片だ。三十六枚を撮り終えるまで、ひと月ほどかかった。

近所に一軒だけ残っている写真屋に、フィルムを預けた。三日で仕上がるという。受け取りに行くと、渡された写真袋は、思っていたよりも少しだけ厚かった。

「三十六枚撮り、ですよね」

念のため確認すると、白髪の店主は「ええ、三十六枚です」と、伝票を見ながら頷いた。

家に帰り、コーヒーを淹れて、一枚ずつめくっていく。最初の数枚は、祖母が撮ったらしい古い写真だった。見覚えのない庭。誰かの後ろ姿。それから、私の撮った写真に変わる。ゼラニウム、猫、窓の外の空。

最後の一枚まで来て、私は手を止めた。

写真袋の底に、もう一枚、残っていた。三十七枚目。

それは、私の部屋の玄関を写したものだった。外側から、廊下に立って撮ったとしか思えない角度で。ドアの番号が、はっきりと読み取れる。間違いなく、私の部屋だ。

写真は、夜に撮られていた。廊下の蛍光灯が片側だけ暗く落ちている。あの灯りが点滅し始めたのは、つい先週のことだった。

私は、このカメラを一度も家から持ち出していない。玄関を外から撮った覚えなど、あるはずもなかった。

念のため、ネガを電球にかざして確かめた。三十六枚分のコマが、きちんと順番に並んでいる。ゼラニウム、猫、窓。けれど、玄関の写真に対応するコマは、どこにもない。紙の写真だけが、たった一枚、多かった。

翌日、私はもう一度写真屋を訪ねた。店主は怪訝そうな顔で枚数を数え直し、「確かに、三十七枚ありますねえ」と眉をひそめた。

「でもね、お客さん。うちの機械は、ネガにある分しか焼けないんですよ。ない写真は、焼きようがない」

帰り道、私は何度も後ろを振り返った。誰もいない。当たり前だ。それなのに、視線のようなものが、ずっと首の後ろに張りついていた。

その夜、玄関の鍵を、いつもより念入りに確かめた。チェーンもかけた。布団に入っても、廊下の小さな物音がいちいち気になって、なかなか寝つけない。点滅する灯りの、ジジ、ジジ、という音だけが、規則正しく続いている。

どれくらい経っただろう。

ふいに、その音が、止んだ。

廊下が、しんと静かになる。

そして——聞こえた。

カシャ、と。

シャッターを切る音が、ドアの向こうで、たった一度だけ。

私は息を止めたまま、暗い天井を見つめている。

三十八枚目が、いつ、どんなふうに手元へ届くのかを、考えながら。

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