📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1463字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー・怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
夕暮れの児童公園で、誰も座っていないのに揺れ続けるブランコ。幼い女の子の何気ない一言から、主人公は亡き祖母との記憶と静かに向き合っていくことになります。
この作品の読みどころは、恐怖と懐かしさが表裏一体になった、切ない読後感にあります。子どもの無邪気な証言が、かえって不気味さと温かさの両方を引き立てる構成になっています。
朗読する際は、前半は穏やかな郷愁を漂わせ、女の子との会話部分では純粋さを、そして結末に向けて静かな寂しさを滲ませることを意識してください。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して、懐かしむような落ち着いた声を基調にしてください。恐怖を煽るのではなく、静かな驚きと切なさを大切にした語りが合います。
② 緩急のつけ方
「あそこ、いつもおばあちゃんが座ってるんだよ」という女の子の台詞の後は、しっかりと間を取ってください。無邪気な言葉だからこそ、その静けさが不気味さを引き立てます。
③ 感情表現のコツ
「最近、あんまり会えなくなっちゃった」の場面では、囁くように、少し寂しさを含んだトーンで読んでください。恐怖よりも切なさが前に出るように意識するのがおすすめです。
④ ラストの処理
最後の「自分でもよくわからないまま」は、声をわずかに小さくしながら、余韻を残して静かに締めくくってください。
台本本文
実家に帰るたびに、あの公園の前を通る。子どもの頃、毎日のように遊んでいた、小さな児童公園だ。今はもう、当時のような賑やかさはなく、遊びに来る子どもの数も、ずいぶん減ったように見える。それでも、あの頃と変わらない場所に、変わらない遊具が残っているのを見ると、少しほっとするような気持ちになる。
先日、夕方に立ち寄る機会があった。遊具はすっかり古びていたが、記憶にあるままの配置で、そこにあった。ブランコ、滑り台、砂場。誰もいない、静かな公園だった。夕暮れ時特有の、どこか物悲しい静けさが、あたりを包んでいた。
ふと、ブランコの一つが、小さく軋んでいることに気づいた。ぎい、ぎい、と、一定のリズムで揺れている。風は、ほとんど吹いていなかった。それなのに、そのブランコだけが、誰も座っていないのに、確かに揺れていた。
不思議に思って眺めていると、砂場の近くで遊んでいた小さな女の子が、こちらに気づいて駆け寄ってきた。三歳か、四歳くらいだろうか。
「おじちゃん、あそこ見てるの?」
女の子は、ブランコを指さして言った。
「あそこ、いつもおばあちゃんが座ってるんだよ」
背筋に、冷たいものが走った。私には、そこに誰も見えなかった。
「おばあちゃんって、誰の?」
そう尋ねると、女の子は、当たり前のことのように答えた。
「知らない。でも、優しいおばあちゃんだよ。いつも、こっち見て笑ってるの」
私は、思わず黙り込んでしまった。ブランコは、相変わらず、同じリズムで軋み続けている。よく見ると、揺れる角度は、いつも決まって同じ高さまでしか上がっていない。まるで、誰かが控えめに、静かに漕いでいるかのように。
私が子どもの頃、このブランコで、よく祖母と遊んでもらった記憶が、ふと蘇ってきた。祖母は、いつも私の後ろから、優しく背中を押してくれた。決して大きくは押さない、控えめな力加減で、私が怖がらない程度の高さまでしか揺らさなかった。「もっと高く」とせがんでも、祖母は「これくらいが、ちょうどいいのよ」と、いつも笑って言うだけだった。祖母が亡くなったのは、もう十年以上前のことだ。あの日以来、私は、あの控えめな揺れの高さのことを、すっかり忘れていた。
「ねえ、いつからいるの、そのおばあちゃん」
女の子に尋ねると、彼女は少し首をかしげて、こう言った。
「ずっと前から。でも最近、あんまり会えなくなっちゃった」
そう言うと、女の子は「また来るね」とだけ言い残して、母親に呼ばれ、砂場の方へ駆けていってしまった。
私は、しばらくその場に立ち尽くしていた。ブランコは、まだ揺れ続けている。日が暮れかけて、公園全体が、橙色に染まっていく。私は、なんとなく落ち着かない気持ちのまま、公園を後にすることにした。
歩き出してすぐ、ふと気になって、振り返ってみた。
ブランコは、止まっていた。
さっきまでの軋む音も、もう聞こえない。夕暮れの中、誰も座っていないブランコが、まるで役目を終えたかのように、静かに佇んでいた。あの控えめな揺れの高さを、もう二度と見ることはないのかもしれない。そう思うと、なぜか胸の奥が、静かに締め付けられるような気がした。
女の子の言葉が、頭の中で繰り返された。
「最近、あんまり会えなくなっちゃった」
それが、いつからのことなのか、私にはわからない。ただ、あのブランコが、もう二度と揺れることはないような気がして、私は、少しだけ早足に、その場を離れた。振り返らないようにしながら、心の中で、そっと呟いた。ありがとう、と。それが誰に向けた言葉なのか、自分でもよくわからないまま。
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