📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1500字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー・怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
ひとり暮らしの女性の玄関に、身に覚えのない合鍵が一本、また一本と増えていく。誰が置いたのかも、何の鍵なのかもわからないまま、その数だけが静かに膨らんでいく物語です。
本作の読みどころは、事件らしい事件が起こらないまま緊張が積み重なっていく構成にあります。鍵という日用品が、少しずつ意味を変えていく違和感を、派手な演出なしにどう表現するかが朗読の見せ場になります。
朗読する際は、終始落ち着いたトーンを保ちながら、鍵が増えるたびにわずかに声の温度を下げていくと、聞き手に不安が自然と伝わります。感情を爆発させない抑制が、この作品の核となる演じ方です。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して、淡々とした報告口調を意識してください。感情を込めすぎず、日記を読み上げるような温度感を保つことで、後半の違和感がより際立ちます。
② 緩急のつけ方
「そんな鍵は、うちでは作っていません」という台詞の前後で、一拍長めの間を取ってください。淡々とした語りの中に生まれる静寂が、恐怖の余白になります。
③ 感情表現のコツ
鍵の本数を数え上げる場面では、感情を出さずに、むしろ抑えた声でゆっくりと数字を発音してください。動揺を隠しきれない微かな震えだけを声に混ぜると効果的です。
④ ラストの処理
最後の一文は、囁くように、そして少し語尾を伸ばして終えてください。断定せず、余韻を残したまま静かにフェードアウトするイメージです。
台本本文
玄関の鍵掛けに、合鍵が一本増えていることに気づいたのは、先週の水曜日のことだった。
自分の鍵、実家の鍵、それから来客用にもう一本。数はいつも三本だったはずだ。けれど、見覚えのない鍵が、いちばん端にひっそりと下がっていた。
誰かが忘れていったのだろうと、そのときは深く考えなかった。母に聞いても、心当たりはないという。合鍵を作った覚えなんてないのに。
一週間後、また一本増えていた。今度は四本。鍵掛けの金具に、見慣れない古い鍵が並んでいる。
気味が悪くなって、家中のすべての鍵穴に、その二本を差し込んでみた。玄関、勝手口、物置。どこにも合わなかった。
知り合いの鍵屋に写真を送って聞いてみた。返ってきた言葉は、思っていたものと違った。
「そんな鍵は、うちでは作っていません」
その夜、玄関のあたりで、かすかに金属が触れ合う音がした。息を潜めて様子をうかがうと、暗がりの中に、人の形をしたものが鍵掛けの前に立っていた。
瞬きをした瞬間、それは消えていた。鍵掛けには、また一本、新しい鍵が下がっていた。
数えてみると、五本。ふと、思い出した。三本目が増えた日、遠い親戚の訃報が届いていたことを。四本目が増えた日、母が体調を崩して入院したことを。
今朝、妹から電話があった。少し前から、原因のわからない熱が続いているという。
その声を聞きながら、私は鍵掛けを見つめていた。今、六本目が、静かに下がっている。
試しに、その鍵を玄関の鍵穴に差し込んでみた。すんなりと回った。長年使ってきた、私自身の鍵よりも、ずっと滑らかに。
誰のためのものかは、まだわからない。ただ、この鍵だけは、捨てずに取っておこうと思う。
いつか、誰かに渡す日が来るような、そんな気がしているから。
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