📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(約1410字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー・怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
📋 ご利用規約:こちらをご確認ください
作品について
祖母が遺した仏壇と、そこに供え続けられる三膳のご飯。二人しかいないはずの家族の記憶の中に、いつからか三膳目が当たり前のように存在していた。誰のためかも分からないまま続けられてきた小さな習わしが、日常の隅でひっそりと形を変えていく物語です。
本作の読みどころは、茶碗の米が減る量という、ごくささやかな変化だけで恐怖と温かさの両方を描いている点にあります。派手な出来事は起こらず、ただ「今日は減っていた」「今日は減っていなかった」という積み重ねだけが、読み手の想像を静かに掻き立てていきます。
朗読される際は、驚かせるような演出を避け、淡々とした語り口を保つことをおすすめします。怖さよりも、日常に紛れ込んだ違和感をじわりと伝えるトーンが、この作品には合っています。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して感情を大きく揺らさず、淡々とした声で語るのが効果的です。「ご飯は必ず三膳、供えるんだよ」という祖母の台詞も、懐かしさを含みつつ抑えた声で読むと、後半の違和感が際立ちます。
② 緩急のつけ方
「減っているのはいつも同じ茶碗」の一文の前後で、わずかに間を取ってください。老婦人の「理由は、聞かないほうがいい」という台詞では、声のトーンを一段落とし、囁くように読むと効果的です。
③ 感情表現のコツ
クライマックスの「湯気の立つ三つの茶碗」の場面では、驚きよりも静かな戸惑いを表現してください。感情を爆発させず、声を張らずに読み進めることが重要です。
④ ラストの処理
最後の一文はゆっくりと、余韻を残すように読み終えてください。断定せず、含みを持たせたまま静かに声を落とすと、聴き手の中に長く印象が残ります。
台本本文
祖母が亡くなってから、この古い家の仏壇を守るのは、僕の役目になった。
生前、祖母はいつも口癖のように言っていた。「ご飯は必ず三膳、供えるんだよ。じいちゃんの分と、ばあちゃんの分と、もう一人の分をね」祖父はもう十年前に他界している。だから二膳で十分なはずなのに、祖母は頑なに三膳目を用意していた。子供の頃、僕がその理由を尋ねると、祖母は困ったように笑うだけで、はっきりとは答えてくれなかった。「そのうち分かるから」と言われるたび、僕はそれ以上聞くのをやめた。
祖母の四十九日を終えた朝、僕は言われた通りに三つの茶碗にご飯をよそい、仏壇に供えた。線香をあげ、手を合わせる。台所の窓から差し込む朝の光と、炊きたての湯気の匂いだけが、いつもと変わらない朝の始まりだった。
数日後、朝の光の中で仏壇を確認したとき、僕は小さな違和感に気づいた。三つの茶碗のうち、一つだけ米粒が明らかに減っている。誰も家には入っていないはずなのに、まるでさっきまで誰かが箸をつけていたかのように、茶碗の縁がうっすらと湿っていた。気のせいだと自分に言い聞かせ、その日はそのまま片付けた。
けれど翌朝も、その次の朝も、同じことが続いた。減っているのはいつも同じ茶碗――祖母が「もう一人の分」と呼んでいた、あの茶碗だけだった。他の二つには、手をつけた形跡すらない。減る量は日によって違い、ほんの一口の日もあれば、半分近く減っている日もある。まるでそこに、体調や気分を持った誰かが本当に座っているかのようだった。
思い切って、近所に住む祖母の幼馴染だという老婦人を訪ねた。仏壇の話を切り出すと、老婦人はしばらく黙り込み、それから静かに言った。「あんたの家には昔から、そういう決まりがあったのよ。理由は、聞かないほうがいい。ただ、供え続けなさい」その声には、拒むような強さと、どこか懐かしむような響きが同居していた。「昔から」という言葉の重みだけが、僕の胸に残った。
答えにならない答えだったが、それ以上尋ねる気にはなれなかった。それから僕は、毎朝欠かさず三膳を供え続けている。何のためか分からないまま続けるうちに、いつしかそれは僕自身の習慣になっていった。
不思議なことに、三膳目が大きく減った翌日は、決まって何かがうまくいった。仕事の商談がまとまったり、なくしたと思っていた物が思わぬ場所から出てきたり。逆に、まったく減らない朝が続くと、決まって体調を崩したり、些細な失敗が重なったりした。偶然だと思おうとしても、あまりに符合が多すぎて、いつしか僕は毎朝、茶碗の減り方を確認するのが日課になっていた。減っていれば安心し、減っていなければ、その日一日をどこか身構えて過ごすようになった。
ある冬の朝、いつもより早く目が覚めて、仏壇の前に立った。まだ何もよそっていないはずなのに、湯気の立つ三つの茶碗が、静かに並んでいた。炊きたての匂いが、確かに漂っている。僕はまだ台所にすら行っていない。
冷蔵庫も、ガス台も、朝の作業を始めた形跡は一切ない。台所は静まり返ったままだった。それでも茶碗は、確かに三つ、そこにあった。
僕は膝をつき、手を合わせた。「今日も、ありがとうございます」誰に向けた言葉かは、自分でもよく分からなかった。ただ、そう言うべきだと、体が先に動いていた。
窓の外はまだ暗く、朝はもう少し先だった。三つの茶碗から立ちのぼる湯気だけが、静かに、確かに、この家の朝を告げていた。
同じジャンルの関連台本
【ホラー・怪談】系の台本をもっと探したい方は、以下もあわせてご覧ください。
リクエストや感想はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。


コメント