【無料・フリー台本】隣の席の忘れもの|3分・1人用・恋愛ジャンル|声の書庫

恋愛/青春

放課後の図書室は、世界でいちばん静かな場所だと思う。

窓から差し込む西日が、机の木目をオレンジ色に染めていた。私はいつもの席に座って、借りたばかりの本を開く。隣の席には、誰もいない。でも、机の上に一冊の文庫本が置き忘れられていた。

見覚えのあるカバー。隣の席の彼が、いつも読んでいる本だ。

「……届けた方がいいよね」

私は手を伸ばして、そっとその本を引き寄せた。その瞬間、ページの間から、ひらりと一枚の紙片が落ちる。

しおりだった。押し花の、小さな、手作りのしおり。よく見ると、裏側に細い文字で何かが書いてある。

「えっと……『三章のあの場面、君はどう思った?』」

声に出して読んでから、私は首をかしげた。誰に向けた言葉なんだろう。ページをめくってみると、三章にだけ、鉛筆でうっすらと線が引かれている箇所があった。ちょうど、私が先週、同じ本を読んで一番好きだと思った場面。

心臓が、ことり、と音を立てた。

もしかして、これは。

ううん、きっと気のせい。偶然。そう思いながらも、私は鞄から小さなメモ用紙を取り出して、鉛筆を握った。

「あの場面、私も好きです。何度読んでも、泣きそうになる」

書き終えて、しおりと一緒に、そっと三章のページに挟む。本を元の位置に戻して、私は何食わぬ顔で自分の本に目を落とした。

でも、文字はちっとも頭に入ってこない。

窓の外で、鳥が一羽、夕空を横切っていく。図書室の時計の秒針が、やけに大きく聞こえた。

明日、彼はこのしおりを見つけるだろうか。メモに気づいて、どんな顔をするだろうか。

想像するだけで、頬が熱くなる。

西日が少しずつ濃くなって、机の上の本を、やわらかく照らしていた。その光の中で、押し花のしおりが、まるで内緒話みたいに、ちいさく微笑んでいる気がした。

――明日が、いつもよりほんの少し、楽しみになった。

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