【無料・フリー台本】真夜中の十三階段|15分・1人用|本格怪談を低音で語りたい方へ|声の書庫

ホラー/怪談

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約15分(4500字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー/怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

古いアパートに引っ越してきた青年が、毎夜決まった時刻に階段を上る足音を聞くようになる――。本作は、ありふれた日常に静かに忍び寄る怪異を、語り手の一人称視点で描いた本格的な怪談朗読台本です。派手な演出や絶叫に頼らず、徐々に積み重なる違和感によって聴き手を恐怖の核心へと導いていきます。

この作品の最大の特徴は、「数えてはいけないもの」を数えてしまった者の末路を描いている点にあります。十三段しかないはずの階段に、なぜ十四段目が現れるのか。その問いに辿り着いたとき、語り手はすでに引き返せない場所に立っています。古典怪談の様式を踏まえつつ、現代的な孤独感を織り込んだ構成になっています。

朗読の際は、抑制された低めのトーンを基調とし、感情を爆発させるのではなく、静かに語る「語り部」の佇まいで進めるのが効果的です。恐怖は声を張ることではなく、間と沈黙によって立ち上がります。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、低めの落ち着いた声で淡々と語ってください。語り手は恐怖の渦中にいた当事者ではあるものの、すでにその出来事を「過去」として振り返っている設定です。冒頭の「あの部屋に住んでいたのは、たった三ヶ月のことだった」という一文は、遠い記憶を辿るような、少しかすれた声で入ると効果的です。感情を込めすぎず、報告するように語ることで、かえって聴き手の想像力が刺激されます。

② 緩急のつけ方

階段の足音を数える場面――「一段、二段、三段……」のくだりでは、一段ごとに確かな間を取り、徐々にテンポを落としてください。逆に「十四段目があった」と気づく瞬間は、ほんの一拍だけ呼吸を止めるように沈黙を挟むと、聴き手の背筋が凍ります。日常描写は流れるように、異変の描写は粘るように。

③ 感情表現のコツ

クライマックス、扉の向こうから声が聞こえる場面では、決して叫ばないでください。むしろ囁くように、息だけで「……もう、いいですか」と漏らすほうが恐怖は深まります。震えは声量ではなく、語尾の微かな揺れで表現してください。

④ ラストの処理

結末の一文は、ほとんど吐息に近い音量まで落とし、最後の句点のあとに三秒以上の余白を残してください。聴き手が「終わったのか、それとも――」と感じる、その余韻こそが本作の核です。フェードアウトするように静かに収めてください。


── 台本本文 ──

あの部屋に住んでいたのは、たった三ヶ月のことだった。けれど今でも、夜の静けさが深くなる頃、私はあの階段の軋む音を、耳の奥で聞いてしまう。

引っ越したのは、十一月の終わりだった。会社が変わり、家賃を切り詰める必要があって、ようやく見つけたのが、私鉄の終点から歩いて二十分ほどの、古い木造アパートだった。築五十年は超えているという話だったが、内装は最低限の手入れがされていて、何より家賃が破格に安かった。

二階建ての、各階に二部屋ずつ。私の部屋は二階の奥、二〇二号室だった。玄関を入るとすぐに、外階段の上り口がある。鉄骨にコンクリートを流したような、無骨な階段だった。

不動産屋は、契約のとき妙なことを言った。「夜中にね、階段の音が気になることが、あるかもしれません。古い建物ですから」と、目を合わせずに笑った。そのときは、ただの世間話だと思っていた。

異変に気づいたのは、引っ越して一週間ほど経った頃だった。

午前二時を過ぎた頃、ふと目が覚めた。耳を澄ますと、外階段を、誰かが上ってくる音がする。鉄の段に靴底が触れる、あの独特のくぐもった音だ。一段、また一段、ゆっくりと、確かなリズムで近づいてくる。

隣室の住人だろう、と思った。深夜に帰宅する人もいる。私はそのまま、また眠りに落ちた。

けれど、翌日も、その翌日も、まったく同じ時刻に、同じ足音が聞こえた。午前二時十三分。私は時計を確かめる癖がついた。

奇妙だったのは、足音が二階に達したあと、どの部屋の扉も開かないことだった。鍵を回す音も、扉を閉める音もしない。ただ、階段を上りきったところで、ぷつりと音が消える。

私は、隣の二〇一号室の住人を、まだ見たことがなかった。表札も出ていない。郵便受けに名前もない。けれど、夜になると確かに、誰かがそこへ帰っているように思えた。

ある晩、私は思いきって、階段を数えてみることにした。

足音が始まった。一段、二段、三段。布団の中で、私は息を殺して、その音を数えていた。四段、五段、六段。

私の住むアパートの階段は、十三段だった。何度か上り下りして、覚えていた。だから、十三を数えれば、足音は止まるはずだった。

七段、八段、九段、十段。

足音は続いた。

十一段、十二段、十三段。

そこで、止まるはずだった。けれど、足音は、止まらなかった。

十四段目が、あった。

私は布団の中で、全身の毛が逆立つのを感じた。聞き間違いだろうかと思った。けれど、確かに私は、十四段目の音を聞いた。鉄の段を踏む、あの音を。

翌朝、私は明るいうちに、階段を何度も上り下りした。一、二、三――やはり十三段だった。どこをどう数えても、十四段はない。

気のせいだ、と自分に言い聞かせた。深夜、半分眠った状態で数えたから、間違えたのだ。そう、思おうとした。

けれど、その夜も、足音は十四段あった。

そして翌々日には、十五段になった。

私は、不動産屋に電話をかけた。前の住人について、何か知らないか、と。

電話の向こうで、相手はしばらく黙っていた。それから、低い声で言った。「あのお部屋のことで、何か――気になることが、ございましたか」

私が事情を話すと、相手はさらに長く黙り、こう言った。「お引っ越しを、お考えになるなら、こちらも誠意を持って対応いたします。ただ、ひとつだけ、お願いがございます。階段の音を、これ以上、数えないでください」

その言葉の意味を、私はうまく飲み込めなかった。けれど、相手の声には、明らかな怯えがあった。商売人の調子ではなかった。

その夜、私は耳を塞いで眠ろうとした。けれど、足音は、耳を塞いでも聞こえてきた。皮膚の下を、直接叩かれているような感覚だった。

数えまいとしても、頭が勝手に数えてしまう。

十六段、十七段、十八段。

足音は、もう私の部屋の扉の前まで来ていた。

そして、ある夜のことだった。

足音が止まったあと、扉の向こうで、声がした。男とも女ともつかない、ひどくかすれた声だった。

「……もう、いいですか」

私は、答えなかった。息さえ、止めていた。

「……数えて、くださって、ありがとう、ございます」

声は、礼を言っていた。けれど、その声には、温度というものが、まったくなかった。

「あと、すこし、です。あと、すこしで、わたしは、上に、行けます」

私は、理解した。あの足音は、階段を上っているのではなかった。私が数えるたびに、段を、増やしていたのだ。私が「ある」と認めるたびに、ない段が、生まれていたのだ。

翌朝、私は荷物をまとめた。家具のほとんどを置いて、鞄ひとつで部屋を出た。階段を下りるとき、私は、絶対に、段を数えなかった。一段ごとに、目をつむり、足の裏の感覚だけを頼りに下りた。

不動産屋は、何も訊かずに鍵を受け取った。違約金の話もしなかった。ただ、別れぎわに、ぽつりと言った。

「あなたで、四人目です」

それから、もう二年が経つ。私は別の街で、別の暮らしをしている。あの夜のことを話す相手もいない。話したところで、信じてもらえるとも思わない。

ただ、ひとつだけ、困っていることがある。

夜、眠りにつく前、ふと、階段の音が聞こえることがある。今住んでいるマンションは、エレベーター付きの新しい建物で、外階段などないのに、それでも、聞こえる。

一段、二段、三段。

数えまいとしても、頭が、勝手に数えてしまう。

そして、いつの間にか、十三を、超えている。

あの声が、また、礼を言いに来る日が、近いのかもしれない。あと、すこし、と、あの声は言っていた。

あと、すこしで、何が起こるのか、私は、まだ、知らない。

知りたくも、ない。

けれど――今夜も、足音は、上ってくる。

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