📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(1500字)
👤 登場人物:性別不問1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー/怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
この作品は、深夜に自分の名前を呼ばれたような気がした——その一瞬の感覚を入口に、じわじわと不安が広がっていく心理ホラー系の怪談台本です。大きな驚かせではなく、日常のなかに忍び込む違和感と恐怖を描いています。
「呼ばれた気がした」という誰もが経験したことのある感覚をベースにしているため、聴き手がすんなりと物語に引き込まれやすい構成になっています。語り手の記憶と現実の境界が少しずつ曖昧になっていく流れに注目してください。
朗読は全体的に落ち着いた平易なトーンで進め、恐怖を煽りすぎないことがポイントです。淡々と語るからこそ、ラストの一文が静かに刺さります。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して「静かに思い出を語る人」のトーンを意識してください。怖がらせようとせず、淡々と、まるで雑談のように読み始めることで、後半の違和感がより際立ちます。冒頭の「あれは去年の秋のことだった」は、特に落ち着いたトーンで入ってください。
② 緩急のつけ方
「そのとき、確かに聞こえた。私の名前を」という箇所では、直前に一拍の間を置いてから読むと効果的です。逆に、主人公が自分に言い聞かせるように語る場面はやや速めに読み、心の揺らぎを表現してください。
③ 感情表現のコツ
このホラー台本では「恐怖を全力で出さない」ことが最大のコツです。主人公は半信半疑のまま語っているので、声を荒げず、むしろ少し首をかしげるような、困惑した雰囲気で読むと不気味さが増します。
④ ラストの処理
ラストの「また、聞こえた」は、できるだけ小さく、ほとんど囁くように読んでください。読み終えたあとすぐに次の言葉をつなげず、数秒の沈黙を置くことで余韻が生まれます。
── 台本本文 ──
あれは去年の秋のことだった。
残業が続いて、帰宅するといつも深夜を過ぎていた。マンションの廊下を歩くとき、足音が妙によく響くのが気になっていた。古い建物だから仕方ないと、そのころはまだそう思っていた。
最初に気づいたのは、十月の終わりごろだったと思う。部屋に入ってコートを脱いで、台所で水を飲もうとしたとき——聞こえた気がした。自分の名前を、誰かが呼んだ気がした。
振り返っても、もちろん誰もいない。テレビもつけていない。隣の部屋の音にしては、やけにはっきりしていた。でも、気のせいだと思った。疲れているんだ、と自分に言い聞かせて、そのまま眠った。
次に起きたのは、三日後だった。
今度は風呂場にいるときだった。シャワーを止めた瞬間、水音が消えた静寂のなかで、それははっきりと聞こえた。私の名前を、呼ぶ声が。低くて、ごく近くで。
思わず「誰かいるんですか」と声に出してしまった。返事はなかった。脱衣所を確認して、廊下を確認して、どこにも誰もいなかった。施錠も問題なかった。
その夜はほとんど眠れなかった。
翌朝、職場の同僚にそれとなく話してみた。すると彼女は少し顔を曇らせて、「そのマンション、前に誰か住んでいたんじゃないの」と言った。冗談めかした口調だったけれど、目は笑っていなかった。
気になって、管理会社に問い合わせてみた。担当者は少し間を置いてから、「以前の入居者の方は、引っ越されました」とだけ答えた。それ以上は教えてもらえなかった。
それからは、なるべく深夜に帰らないようにした。早めに切り上げて、明るいうちに部屋に入る。それだけで、ずいぶん気持ちが楽になった。しばらくのあいだは、何も起きなかった。
引っ越しを考えはじめたのは、十一月の中旬だった。
ある夜、布団に入って目を閉じていたとき、ふと、部屋のなかが静かすぎると感じた。外の車の音も、風の音も、何も聞こえない。まるで耳に綿を詰めたみたいな、妙な静寂だった。
そのとき、確かに聞こえた。私の名前を。
枕元のすぐそばで。
目を開けることができなかった。体が動かなかった。ただ、息だけをひそめて、夜が明けるのをじっと待った。朝になって、ようやく体が動いた。その日のうちに引っ越し業者に電話した。
今はもう別の場所に住んでいる。静かで、日当たりのいい部屋だ。あの声は、もう聞こえない。
聞こえない、はずだった。
ただ、たまに——本当にたまにだけど——眠りに落ちる直前に、思うことがある。あの声は、何を伝えようとしていたんだろう、と。
そんなことを考えていた、今夜も。
また、聞こえた。
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