【フリー朗読台本】星を繕う夜|10分・1人用|穏やかな語りで癒したい人へ|声の書庫

ファンタジー・異世界

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約10分(約2,900字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ファンタジー・異世界
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

夜ごと丘の上のはしごをのぼり、空に綻んだ星を一つひとつ縫い直す老いた星繕い。本作は、そんな静かな幻想世界に生きる一人の女性の、ある一夜を描いた物語です。誰に知られることもない手仕事の温もりが、淡い灯りのように全編を包みます。

物語が動くのは、繕い古された一つの星と出会う場面から。何度も重ねられた縫い目の中に、語り手は自分より前にこの仕事を担った人々の痕跡を見出します。受け継がれてきた営みの長さに気づく瞬間の、静かな心の揺れが読みどころです。

派手な展開はなく、終始穏やかなトーンで進みます。朗読の際は、急がず、糸を一針ずつ通すような落ち着いた語りを意識すると、作品の余韻がいっそう深まります。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全編を通して、年老いた女性が静かに昔語りをするような、低く穏やかなトーンで読むと世界観が馴染みます。冒頭の「私の仕事は、星を繕うことだ。」は、淡々と、けれど確信を込めて。長い年月を生きてきた者の落ち着きを声に乗せてください。

② 緩急のつけ方

星をあやす「ほら、じっとしておいで」は、囁くようにやわらかく。一方、古い星に気づく「あんた……ずいぶん頑張ってきたんだねえ」の前では、たっぷりと間を取り、声を一段落としてください。沈黙が驚きと愛おしさを伝えます。

③ 感情表現のコツ

前の星繕いの縫い目を見つける場面が感情の山場です。「繋いでいくんだねえ」は、こみ上げるものを抑えながら、それでも声を震わせすぎないこと。抑えた語りのほうが、聴き手の胸に静かに届きます。

④ ラストの処理

結びの「おやすみ。また明日の夜、繕いに行くからね。」は、誰かに語りかけるように、ゆっくりと。最後の一音を余韻ごとそっと置くように消すと、夜空の静けさが残ります。


台本本文

私の仕事は、星を繕うことだ。

こう言うと、たいていの人は笑う。星なんて空の上で勝手に光っているものだろう、と。けれど、そうではない。あの一つひとつは、ずいぶんと傷みやすいものだ。糸がほつれ、布が薄くなり、夜ごとに少しずつ綻んでいく。誰かが繕ってやらなければ、星はやがて自分の重さに耐えきれず、落ちてしまう。

だから私は、毎晩はしごをのぼる。

町はずれの丘の上に、傾いだ仕事場がある。屋根を突き抜けて、長い長いはしごが、まっすぐ空へと伸びている。何段あるのか、数えたことはない。のぼっているうちに町の灯りが遠ざかり、風の匂いが変わり、やがて手を伸ばせば星に届くところまで来る。私は腰に針箱を下げ、糸を一本くわえて、綻んだ星から順に縫っていく。

「ほら、じっとしておいで」

逃げようとする星を、私は手のひらでそっと包む。小さな星は、まるで雛鳥のように胸の中で震えている。遠くから見れば冷たそうなのに、握ってみると、ほのかに温かい。私はその綻んだ縁を、丁寧に、丁寧に縫い合わせていく。針を運ぶたび、指先がじんと痺れる。冬の夜などは、糸を結ぶ頃には指の感覚がなくなっている。

この仕事を始めて、もう六十年になる。

教えてくれたのは、前の星繕いだった。やはり腰の曲がった老婆で、私がまだ親もなく拾われた子どもだった頃から、ずっとこの丘にいた。

「いいかい」と、その人はよく言ったものだ。「星はね、誰かが見上げてくれているうちは、落ちないんだよ。けれど、忘れられた星は、糸が細くなる。誰にも見てもらえない星は、自分の光を信じられなくなって、ほどけていくんだ。私たちの仕事はね、その細くなった糸を見つけて、結び直してやることなのさ」

私は子どもながらに、その言葉を信じた。そして六十年たった今でも、まだ信じている。

今夜は、ひときわ綻んだ星があった。

はしごのてっぺんから手を伸ばしても、なかなか掴めない。ずいぶん高いところで、今にも糸が切れそうに、心細げに瞬いている。私は爪先立ちになり、息を止めて、指の先で、ようやくその星を引き寄せた。

手のひらに乗せて、はっと息をのんだ。

ずいぶんと古い星だった。布はすっかり擦り切れ、縫い目はほとんどほどけかけている。けれどよく見れば、何度も何度も繕われた跡がある。重ねて、重ねて、誰かが長いあいだ、この星を守り続けてきたのだ。

「あんた……ずいぶん頑張ってきたんだねえ」

私は針を持つ手を止めて、しばらくその星を見つめていた。

繕われた跡の、いちばん古いところに、見覚えのある縫い目を見つけた。ほんの少し不器用で、けれど一針一針に真心のこもった、独特の運針。──前の星繕いの手だ。間違いない。あの人がまだ若かった頃に縫った跡だった。指の運びには癖が出る。何十年そばで見てきたか分からないあの手を、私が見間違えるはずがない。

ということは、この星は。

私が生まれるよりもずっと昔から、この空にいて。あの人が繕い、いつのまにか私も知らぬまに何度も繕い、そうやって、ここまで光り続けてきた星なのだ。

私は急に、胸がいっぱいになった。

夜なべをして指がかじかんでも、誰に礼を言われるでもない仕事だと、ときどき思うことがあった。地上から空を見上げる人は、星が誰かの手で繕われているなんて、思いもしない。当たり前のように、毎晩そこにあると思っている。

けれど、この一つの星が、こんなにも繰り返し、繰り返し守られてきたという事実が、いま私の手のひらの上で、確かに瞬いている。

私の前にも、誰かがいた。そのまた前にも、きっと誰かがいた。名前も顔も知らない誰かが、私と同じようにこのはしごをのぼり、同じように指を凍えさせて、この小さな光を縫い続けてきたのだ。

「……繋いでいくんだねえ」

私は新しい糸を通した。前の人の縫い目に、そっと自分の縫い目を重ねていく。ほつれた縁を一針ずつ拾い上げ、薄くなったところに布を継ぎ、最後にきゅっと、固く結び目を作る。

「さあ、お行き」

手のひらをそっと開くと、星はふわりと浮かび上がった。一度、二度、まるで挨拶でもするように私の周りをめぐって瞬いて、それからゆっくりと、もとの高い場所へと帰っていった。

空に戻ったその星は、さっきよりも少しだけ、明るく見えた。気のせいかもしれない。けれど、私にはそう見えた。

私は、はしごをおりた。

一段、また一段。風の匂いがもとに戻り、町の灯りが近づいてくる。仕事場の小さな窓から、もう一度空を見上げた。数えきれないほどの星が、今夜も静かに光っている。そのどれもが、きっと誰かの手で繕われた星なのだ。私の知らない、数えきれないほどの夜なべの跡。

いつか私も、針を持てなくなる日が来るだろう。

そのときは、誰かがこの丘にのぼってくる。私がかつて拾われたように、私が誰かを拾って、糸の通し方を、結び目の作り方を教える日が来る。そうやって、また繋がっていくのだ。

私は仕事場の明かりを消し、布団に入った。

天窓の向こうで、あの古い星が、ちかちかと瞬いている。──まるで、ありがとう、とでも言うように。

おやすみ。また明日の夜、繕いに行くからね。

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