【フリー朗読台本】君の椅子を、作っている|6分・男性1人用|孫の誕生を待つ祖父の朗読に|声の書庫

感動・泣ける

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約6分(1,725字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:感動・泣ける
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

初孫の誕生を控えた元家具職人の男性が、工房でひとり、小さな椅子を作り続ける物語です。震える手で木を削りながら、三十年前に娘のために作った踏み台の記憶が重なっていきます。

この作品の読みどころは、「まだ見ぬ命への愛情を、言葉ではなく手仕事で表現する」構成にあります。派手な出来事はなく、木を削る音と、静かな待ち時間の積み重ねが、聴く人の心にじんわりと染み込みます。

朗読する際は、穏やかで落ち着いた語り口を基調にしてください。感情を大きく揺らす場面は少なく、静かな喜びを噛みしめるようなトーンが作品に合っています。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、穏やかで落ち着いた声を意識してください。木工作業を語る場面は、手の動きが伝わるようにゆったりとしたテンポで読むと効果的です。

② 緩急のつけ方

「まだ、こんなに丈夫なんだね」と娘が踏み台を撫でる場面は、少し間を取り、しみじみとした余韻を残してください。

③ 感情表現のコツ

「無事に生まれました。元気な女の子です」の電話の場面は、驚きと安堵が入り混じるように、声をわずかに震わせながら読むと感情が伝わります。

④ ラストの処理

最終段落は、声を落とし、希望を感じさせるように穏やかに締めくくってください。


台本本文

工房の隅で、小さな椅子を作っている。

木の匂いに包まれながら、鉋をかける手を止め、私はふと窓の外を見た。桜はもう散って、若葉の緑が眩しい季節になっていた。娘の出産予定日まで、あと一ヶ月を切っている。

きっかけは、娘からの何気ない一言だった。「お父さん、木工得意だったよね。何か作ってくれない?」。深く考えずに引き受けたその一言が、こんなにも私の毎日を満たすことになるとは思わなかった。

図面を引くところから始めた。背もたれの高さ、座面の丸み、脚の太さ。何十年も家具屋の職人として働いてきたが、自分の孫のための椅子を作るのは、これが初めてだった。手が震えることもあった。若い頃のようには思うように動かない。それでも、この手が覚えている感覚だけは、まだ確かに残っていた。

「無理しなくていいのよ」

妻は隣でお茶を淹れながら、いつも同じことを言った。けれど、削れば削るほど木は素直に応えてくれる。私はその手応えが、嬉しくてたまらなかった。

思えば、娘のためにも、同じように何かを作った覚えがある。三十年前、まだ幼かった娘のために、小さな踏み台を作った。当時は仕事に追われ、休みの日にわずかな時間を見つけては、少しずつ木を削っていた。出来上がった踏み台を見て、娘は目を輝かせて何度も上り下りを繰り返した。あの日の笑い声は、今でもはっきりと覚えている。

「お父さん、これ、私が使ってたやつでしょう」

先週、実家に顔を出した娘が、納屋の奥から古い踏み台を見つけて言った。表面はすっかり傷だらけになっていたが、脚の形は当時のままだった。

「まだ、こんなに丈夫なんだね」

娘はそう言って、踏み台をそっと撫でた。その仕草に、時間の流れの速さを、あらためて感じさせられた。あの小さな手が、今では新しい命を宿しているのだから。

椅子作りは、思っていたよりも時間がかかった。老眼鏡をかけても、細かい継ぎ目がうまく見えない日もあった。それでも、一日一日、少しずつ形になっていく椅子を眺めるのが、何よりの楽しみだった。

背もたれに小さな模様を彫り込むことにした。娘が子供の頃、好きだった花の形だ。図案を何度も描き直し、ようやく納得のいく彫りができたのは、つい昨日のことだった。彫刻刀を握る手つきは若い頃ほど確かではなかったが、それでも一彫りごとに、この子への思いを込めているような気がしていた。

「もうすぐ、完成だな」

工房でひとりごとを呟きながら、最後の仕上げに取りかかった。ヤスリで表面を整え、オイルを丁寧に塗り込んでいく。木目が、じんわりと美しく浮かび上がってきた。

そのとき、携帯電話が鳴った。娘の夫からだった。

「お義父さん、産気づきました。今から病院に向かいます」

手が止まった。オイルのついた指先で、慌てて電話を握り直す。「分かった、気をつけて向かってくれ」。それだけ言うのが、精一杯だった。

椅子は、まだ完成していない。けれど、不思議と焦りはなかった。この子が、この椅子に座れるようになるまでには、まだ少し時間がある。今はただ、無事に生まれてきてくれることだけを願っていた。

それでも、じっとしていられず、私は再び工房に立った。手を動かしていないと、落ち着かなかったのだと思う。妻も心配そうに、何度も携帯電話の画面を覗き込んでいた。

「大丈夫よ、お産は時間がかかるものだから」

そう言いながらも、妻自身の声も、いつもより少し高かった。私たちは並んで座り、代わる代わる椅子の脚を磨いた。会話は少なかったが、同じ気持ちを共有していることは、言葉にしなくても分かった。

三時間ほど経った頃、再び電話が鳴った。娘の夫の、少し上ずった声が聞こえてきた。

「無事に生まれました。元気な女の子です」

その一言に、握っていたヤスリを思わず取り落としそうになった。妻は隣で、声を上げずに涙をぬぐっていた。私はしばらく、何も言葉が出てこなかった。ただ、工房の窓から差し込む夕日が、やけに眩しく感じられた。

翌朝、私はまた工房に立った。昨夜はほとんど眠れなかったが、不思議と疲れは感じなかった。鉋を手に取り、椅子の最後の仕上げに取りかかる。この子がいつか、この椅子に座って笑う日を思い浮かべながら、私はもう一度、静かに木を削り始めた。

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