📖 この台本について
⏱ 読了時間:約3分(約900字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:感動・泣ける
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
本作は、亡き父が育てていた盆栽の鉢から見つかった一枚の紙をきっかけに、言葉少なだった父の胸のうちを知る息子の独白です。庭仕事にしか興味がないと思っていた父の背中に、実は長い年月分の想いが積み重なっていた——静かな驚きと温もりが交差する物語です。
読みどころは、「大きくならなくていい」という一言に込められた、比較のない愛情の形にあります。父と子の会話は多くなくとも、育てるという行為そのものが対話になっていたことに気づかされる構成です。
朗読する際は、抑えた語り口が合う作品です。感情を強く込めるのではなく、事実をひとつずつ受け止めていくような静かなトーンを意識すると、ラストの余韻がより深く伝わります。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
主人公は、父を亡くしたばかりの成人男性です。感傷的になりすぎず、淡々と事実を確認していくような声のトーンが合います。冒頭の「父が遺したのは」という一文は、感情を込めずに事実として静かに読んでください。
② 緩急のつけ方
「お前が生まれた日に、根分けした」という手紙の一節は、間を十分に取り、一文字ずつ噛みしめるように読むと効果的です。前後にわずかな沈黙を挟んでください。
③ 感情表現のコツ
「あの短い相槌の裏に」の一文は、抑えていた感情が静かにあふれ出す瞬間です。声を張らず、少し掠れるくらいの抑えた震えを乗せると自然に響きます。
④ ラストの処理
最後の「しばらく鉢の前を離れなかった」は、語尾を小さく落として、余韻を残すように締めくくってください。
台本本文
父が遺したのは、猫の額ほどの庭に並ぶ、十二鉢の盆栽だった。
四十九日を終えた夜、僕はその一つひとつに水をやりながら、途方に暮れていた。松、楓、五葉松。名前すら分からないものもある。父は毎朝欠かさず、鋏を手に庭に立っていた。その背中を、僕は数えるほどしか見ていない。仕事一筋で、休みの日も口数の少ない人だった。正直に言えば、盆栽の手入れに費やす父の時間を、少し疎ましく思っていた時期もある。
一番奥に置かれた、小さな黒松の鉢だけが、他より古びて見えた。持ち上げようとした拍子に、鉢底の隙間から、黄ばんだ紙が滑り落ちた。
震える指で広げると、父の字だった。「お前が生まれた日に、根分けした。育つのは、お前と同じ速さでいい。」
日付を見て、僕は息を止めた。僕の誕生日と、同じだった。紙は何度も広げ直された跡があって、端が擦り切れていた。父は、この短い一行を何度も読み返していたのだろうか。それとも、書くべき言葉を、長い間探していたのだろうか。
思い出す。父は休みの日も、まず庭に出た。仕事より先に、この松に水をやっていた。「今日はどれくらい伸びたか」と、独り言のように呟く声を、幾度となく聞いていた。あれは僕の成長を見ていたのだと、今ようやく分かる。文句ひとつ言わず鋏を握り続けた四十年間、父はきっと、遠くにいる息子の背丈を、この鉢の中で測っていたのだ。
僕は鉢を両手で抱え直した。ずっしりと重い。この重みは、鋏の音も、水やりの朝も、長い年月分の沈黙の会話そのものだった。電話で近況を聞かれるたび、「ああ」「そうか」としか返さなかった父。あの短い相槌の裏に、こんなにも長い言葉が積もっていたとは、僕は知らなかった。
「大きくならなくていい」と、父は書いていた。「お前のままの速さで、育てばいい。」
僕はその夜、初めて鋏を握った。伸びすぎた枝を一本、そっと落とす。切り口から、松の匂いがした。父の匂いと、少しだけ似ていた。
来年の春、僕にも子供が生まれる。この松は手放さず、僕が育てようと思う。急がず、比べず、ただその子の速さで。
窓の外はもう暗い。それでも僕は、しばらく鉢の前を離れなかった。
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