【無料・フリー台本】十二月の改札|10分・1人用|切ない再会を演じたい女性向け|声の書庫

恋愛/青春

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約10分(約3000字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:恋愛
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

七年前に別れた恋人と、十二月の駅の改札で偶然再会する女性の独白です。再会の数十秒、そして別れたあとの帰り道に流れる時間の中で、しまっておいたはずの記憶がゆっくりと輪郭を取り戻していく――そんな冬の夜の物語です。

本作の特徴は、ドラマチックな出来事は何ひとつ起こらないということ。声をかけ、短く言葉を交わし、別れる。たったそれだけの場面に、七年分の感情を重ねていきます。「言わなかった言葉」と「言えなかった言葉」の違いを、声で描き分けられる作品です。

朗読する際は、声を張らず、息に近い穏やかなトーンを基調に。胸の奥で何かがほどけていく感覚を、ゆっくりとした呼吸と間合いで丁寧に紡いでみてください。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

全体を通して、誰かに話しかけるのではなく、自分の胸の中で言葉を確かめるような独白調で読んでください。声量は控えめに、息を多く含ませた柔らかい音で。特に冒頭の「十二月の改札は、いつも少しだけ風が冷たい」は、聞き手をそっと物語に招き入れるように、囁くより少しだけ前に出した声で。

② 緩急のつけ方

再会の瞬間「あ、と声が出そうになった」では、息を一拍止めるように間を取ります。会話部分の「久しぶり」「うん、久しぶり」は、感情を込めすぎず、むしろ淡々と。七年の重さは、言葉ではなく沈黙に乗せてください。回想に入る段落では、ぐっとテンポを落として、過去の景色をなぞるように。

② 感情表現のコツ

クライマックスの「好きだった、と過去形で思えるようになるまで、こんなに時間がかかるなんて」は、決して泣かないでください。涙をこらえる声ではなく、もう泣き終わった人の声で。少しだけ口元が緩むような、諦めと安堵が混ざった響きを意識してください。

④ ラストの処理

最後の「きっとこれで、ちゃんと終われる」は、明るくも暗くもなく、まっすぐに置くように読んでください。読み終えたあと、2〜3秒の余韻を残してから息を抜くと、十二月の夜の静けさが画面の向こうまで届きます。


── 台本本文 ──

十二月の改札は、いつも少しだけ風が冷たい。

仕事帰り、コートの襟を立てて、いつもの駅で降りた。改札を出て、ロータリーへ続く階段を下りようとしたところで、向こうから歩いてくる人と目が合った。

あ、と声が出そうになった。出さなかった。

七年ぶりだった。けれど、すぐにわかった。輪郭が、歩き方が、肩のラインが、何も変わっていなかったから。

向こうも気づいたみたいで、少しだけ歩く速度が遅くなって、それから、やっぱり止まらずに、私のすぐ前で立ち止まった。

「久しぶり」

「うん、久しぶり」

たぶん、二人とも同じくらい、間の抜けた声だったと思う。改札の電子音が、私たちの間でやけに大きく鳴った。

「元気そうだね」

「うん。そっちも」

本当はもっと、言いたいことがあった気がするけれど、どれも喉の手前で止まった。聞きたいこともたくさんあった気がするけれど、どれも今さら聞いていいことじゃない気がした。

「じゃあ」

「うん、じゃあ」

会話というには、あまりにも短かった。彼は軽く頭を下げて、改札の向こうへ歩いていった。私はその背中を、ほんの数秒だけ見送って、それから自分の家のほうへ歩き出した。

家までの道は、いつもよりずっと長く感じた。

七年前の冬、私たちは別れた。理由なんて、今となってはもうよく覚えていない。たぶん、決定的な何かがあったわけじゃなくて、いくつもの小さなずれが、知らないうちに大きな溝になっていただけ。

別れる前の最後の数ヶ月、私たちは同じ部屋にいても、それぞれ別のものを見ていた。彼はテレビを、私はスマホを。同じ食卓で、別の沈黙を食べていた。

別れ話をしたのは、たしか、よく晴れた日曜日の午後だった。喧嘩にはならなかった。お互いに「うん」「そうだね」と頷いて、少し泣いて、そして終わった。

それからの七年間、私はちゃんと、新しい毎日を生きてきた。仕事も変わった。引っ越しもした。新しい人とも、何度か出会った。彼のことを、毎日思い出していたわけじゃない。

ただ、ふとした瞬間に、ふっと顔が浮かぶことがあった。たとえば、コンビニで彼が好きだったコーヒーを見かけたとき。たとえば、どこかの店から、あの頃よく聴いていた曲が流れてきたとき。

そういうとき、私はいつも、心のどこかが少しだけ痛むのを、見ないふりをして通り過ぎていた。

家に着いて、玄関の鍵を開けて、電気をつけて、コートを脱いで、ソファに座った。

不思議なくらい、涙は出なかった。

たぶん、もう泣くような種類の感情じゃないんだと思う。さっきの彼は、私の知っている彼じゃなかった。背は同じくらいだったし、声も変わっていなかったけれど、あの目の奥にある時間は、もう私の知らない場所のものだった。

七年って、そういうことなんだろう。

同じ景色を見ていた人が、別々の場所で、別々の景色を積み重ねて、そして、たまたま同じ改札で、すれ違う。それだけの関係になる。

ソファに座ったまま、私は天井を見上げた。

好きだったな、と思った。

過去形で、ちゃんと思えた。

付き合っていた頃のことも、別れたあとのことも、全部ひっくるめて、好きだった、と思った。今もまだ、嫌いになれていないことも、ちゃんと知っている。

けれど、もう、戻りたいとは思わなかった。

あの頃の私は、たぶん、あの頃の彼にしか恋ができなかった。今の私は、今の彼を好きになる時間を、もう持っていない。それで、いいのだと思った。

好きだった、と過去形で思えるようになるまで、こんなに時間がかかるなんて、別れたばかりの私は知らなかった。

七年前の私に教えてあげられるなら、教えてあげたい。大丈夫だよ、と。ちゃんと、ちゃんと、終われるからね、と。

窓の外で、誰かの笑い声が遠くを通り過ぎていった。十二月の夜は、いつも少しだけ、人の気配が遠い。

立ち上がって、ケトルに水を入れて、火にかけた。お湯が沸くまでの数分間、私はただ、青い炎を見つめていた。

もう、彼の連絡先は持っていない。SNSも、ずっと前に外した。今日のことを誰かに話すこともないし、たぶん、明日になればもう、私の中で少しずつ薄れていく。

それでいい。

偶然の再会は、たぶん、終わらせるためのものだった。私の中でだけ、まだ少しだけ続いていた七年前の冬を、本当の意味で閉じるために。

ケトルがかすかに音を立てはじめた。

私はマグカップを取り出して、棚の奥にずっと置いていたインスタントのコーヒーを、久しぶりに開けた。彼が好きだった銘柄。捨てればよかったのに、捨てられなかった、最後のひとつ。

お湯を注いで、ゆっくりとかき混ぜる。湯気が、暖房の効いた部屋の中で、ふわりと立ちのぼった。

ひとくち飲んで、ちょっとだけ笑った。

こんなに苦かったっけ、と思った。

きっとこれで、ちゃんと終われる。

マグカップの中の湯気が、静かに、静かに、消えていった。

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