📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(1,500字)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:恋愛・青春
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
📋 ご利用規約:こちらをご確認ください
作品について
この作品は、高校三年の冬、卒業を間近に控えた男子生徒が、毎朝同じバス停で見かけていた他校の女の子に、最後の最後で一歩を踏み出すまでを描いた恋愛・青春台本です。三年間、声をかけられないまま過ぎていった朝の時間。雪の降る卒業式の日、彼女が忘れていったひとつの傘が、止まっていた時間をそっと動かします。
この作品の読みどころは、「言えなかった」という後悔と、「まだ間に合うかもしれない」という小さな勇気が、たった一本の傘を通して交差する瞬間にあります。派手な告白も劇的な展開もありません。あるのは、雪の匂いと、白い息と、握りしめた傘の柄の冷たさだけ。何でもない毎日の中に芽生えていた想いの輪郭が、最後の一場面で静かに像を結びます。
朗読する際は、終始ひかえめなトーンが効果的です。主人公はおしゃべりな少年ではなく、心の中でだけ饒舌な、不器用な男の子。声を張らず、独白を自分自身に語りかけるように読むことで、彼の内側にたまった三年分の想いがにじみ出ます。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
主人公は内気な高校三年生の男の子です。声はやや抑えめ、息を多めに含ませた語りが似合います。冒頭の「三年間、僕は彼女に一度も話しかけられなかった」という一文は、嘆くのではなく、ただ事実を確かめるように、淡々と置いてください。少年の不器用さは、声を作るのではなく「言いよどみ」で表現すると自然です。
② 緩急のつけ方
回想の場面はゆったりと流し、卒業式の日の場面でわずかにテンポを上げます。「あ、傘」と気づく一行の前後では、一拍だけ間を取ってください。沈黙が、彼の胸の高鳴りを代弁します。逆に走り出す場面は息を切らさず、内側の焦りだけを声に乗せると効果的です。
③ 感情表現のコツ
クライマックスで彼女に傘を差し出す「これ、忘れてたよ」のセリフは、感情を込めすぎないこと。むしろ声を少し落とし、囁くように。三年間言えなかった言葉のすべてが、その短い一言に圧縮されている——そう意識して読むと、聴き手の想像が膨らみます。
④ ラストの処理
最後の「来年も、同じバス停で待ってていい?」は、問いかけのまま、語尾をふっと宙に残してください。答えは描かれません。降りやまない雪の中に、ふたりのこれからを溶かすように、静かに読み終えるのが理想です。
台本本文
三年間、僕は彼女に一度も話しかけられなかった。
毎朝、七時十二分のバス停。僕より少し先に着いて、いつも同じ場所に立っていた。制服は隣町の高校のもので、名前も、声も、何ひとつ知らない。知っているのは、彼女が雨の日に水色の傘をさすことと、本を読むときに少しだけ眉を寄せること。それだけだった。
話しかけよう、と思った朝は数えきれない。「おはよう」のたった四文字が、どうしても喉から出てこなかった。バスが来る。彼女が乗る。僕も乗る。違う停留所で、彼女が降りる。それを三年間、繰り返してきた。
そして今日は、卒業式だった。
雪が降っていた。この冬いちばんの、大きな雪だった。式が終わって、もう彼女に会うこともないのだと、僕はやっと気づいた。同じバス停は、もう来年から、僕の通学路ではなくなる。
帰り道、いつものバス停の前を通った。誰もいなかった。当たり前だ。今日は日曜で、彼女の学校も、とっくに式は終わっているはずだった。
ベンチに、傘が一本、置き忘れられていた。
水色の、見覚えのある傘だった。
心臓が、跳ねた。僕はあたりを見回した。雪の向こう、横断歩道の信号待ちに、見慣れた背中があった。傘も差さずに、肩に雪を積もらせて立っていた。
あ、傘。
気づいたときには、走り出していた。三年間、一歩も動けなかった足が、今日はどうしてか、勝手に前へ出た。雪を蹴って、息を切らして、信号の手前で、僕は彼女に追いついた。
「これ、忘れてたよ」
差し出した傘の上に、雪が落ちて、すぐに溶けた。彼女が振り返った。間近で見る顔は、思っていたより、ずっとやわらかかった。
「……ありがとう」
彼女は少し驚いた顔をして、それから、ふっと笑った。
「あなた、いつも七時十二分の人だよね」
知られていた。僕の心臓が、今度は別の理由で跳ねた。彼女は、知っていたのだ。僕が、毎朝そこにいたことを。
「話しかけてくれるの、待ってたんだけどな」
雪が、僕らの間にゆっくり降りていた。白い息が、ふたつ、宙でほどけた。僕は、三年間言えなかった言葉のかわりに、ひとつだけ、訊いた。
「来年も、同じバス停で待ってていい?」
彼女は答えなかった。ただ、水色の傘を、ぱっと開いて、僕の頭の上にも、半分だけ差しかけてくれた。
雪は、まだ、降りやまなかった。
同じジャンルの関連台本
恋愛・青春系の台本をもっと探したい方は、以下もあわせてご覧ください。
リクエストや感想はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。


コメント