📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(1400字程度)
👤 登場人物:男性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ミステリー・サスペンス
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
ショッピングモールの警備員として働く男が、閉店後の見回りで気づいた小さな違和感を描く物語です。空いているはずのコインロッカーに、なぜか毎晩同じ折り鶴が戻ってくる。その先には、八年前に起きたある行方不明事件の記憶が静かに横たわっています。
本作の読みどころは、派手な事件性ではなく、日常の中にわずかに滲む違和感の積み重ねにあります。誰かに危害が及ぶような展開ではなく、忘れられかけた過去がゆっくりと形を持って戻ってくる、その静かな緊張感を味わっていただける作品です。
朗読の際は、過剰な演出を避け、淡々とした語り口を保つことで物語の余白が生きてきます。感情を込めすぎず、事実を積み重ねるように読み進めるのがおすすめです。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して、感情を抑えた「業務日誌」のような落ち着いたトーンが基本です。淡々と事実を報告するような声で読むと、後半の違和感がより際立ちます。
② 緩急のつけ方
「あの区画のことは、あまり詮索しないほうがいい」という先輩のセリフでは、少し声のトーンを落とし、間を置いてから次の文へ移ってください。読み手の警戒心を静かに誘う場面です。
③ 感情表現のコツ
「まだ、待ってるの」という一言は、囁くように、そして本当に聞こえたのか自信が持てないような曖昧さを声にのせると効果的です。断定的に読まないことがポイントです。
④ ラストの処理
結末は事件の解決ではなく余韻で締めくくられます。最後の一文は、少し声量を落とし、聞き手に想像の余地を残すようにゆっくりと読み終えてください。
台本本文
大型ショッピングモールの警備員としてこの建物で働き始めて、三年になる。閉店後の見回りは静かで、蛍光灯の唸る音だけが廊下に響く。異変に気づいたのは、地下一階のコインロッカーコーナーを通りかかったときだった。
四十七番のロッカー。使用済みの表示が出ているのに、契約上は八年前から空いているはずの区画だ。何気なく扉を開けてみると、中には折り鶴が一羽、きちんと台の中央に置かれていた。誰かの忘れ物だろうと思い、事務所に届けようとした。だが次の夜、同じロッカーを覗くと、また同じ折り鶴があった。台の位置も、向きも、寸分違わず同じだった。
不思議に思いながらも、その週は特に気にせず過ごした。三度目に発見したとき、さすがに違和感を覚えた。折り鶴は毎回、同じ角度、同じ位置に置かれている。まるで、誰かが儀式のようにそこへ戻しているかのようだった。片づけても、翌晩にはまた同じ場所に現れる。それを何度か繰り返すうちに、私はこの区画から目を離せなくなっていた。休憩中もつい足が向いてしまい、気づけば同じ通路を何度も行き来していた。
防犯カメラの記録を確認しようとしたが、四十七番の区画だけ、なぜか映像に乱れが生じていた。同僚に聞くと、「ああ、あそこはたまに調子悪いんだよな」と気にする様子もなかった。長く勤めているベテランの先輩にそれとなく尋ねてみると、少し表情を曇らせてから、こう言った。
「あの区画のことは、あまり詮索しないほうがいい」
その一言が、かえって私の好奇心をかき立てた。気になって、モールの管理事務所で過去の記録を調べてみた。八年前、この場所で女性の行方不明事件があったという。当時大学生だった彼女は、友人と待ち合わせをしていたが、そのまま姿を消した。最後に彼女を見た人物の証言によれば、コインロッカーコーナーへ向かう彼女の後ろ姿だけが記録されていたそうだ。事件は結局、手がかりもないまま未解決となり、いつしか語られなくなっていた。当時を知る職員も、今ではほとんど残っていないという。
その夜、私は四十七番のロッカーの前で待つことにした。誰もいない地下フロアで、時計の針だけが進んでいく。深夜二時を過ぎた頃、かすかな物音がした。振り返っても、そこには誰もいない。だが、ロッカーの扉はわずかに開いていて、中の折り鶴の向きが、さっきまでと違っていた。まるで、たった今誰かが手に取ったばかりのように。
「まだ、待ってるの」
声にならないつぶやきが、耳の奥で聞こえた気がした。空調の音だったのかもしれない。それでも私は、その日から折り鶴を動かさないことに決めた。以来、四十七番の前を通るときは、少しだけ歩調を緩めるようになった。誰かに見られているような、誰かを見送っているような、そんな気持ちになるからだ。
数か月後、モールの改装工事でロッカーコーナーは撤去されることになった。作業員が四十七番を解体したとき、奥の隙間から古いキーホルダーが見つかったという。行方不明になった女性の持ち物と一致し、警察が改めて調べ直すことになったと、後日ニュースで知った。それでも事件は今も未解決のままだ。
工事が終わり、あの一角には何もない通路が広がっているだけだ。それでもそこを通るたびに、私はふと足を止めてしまう。もう何もないとわかっていても、誰かがそこで、まだ何かを待っているような気がしてならないからだ。折り鶴の行方も、今となっては誰にもわからない。
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