【フリー朗読台本】夜ごと、扉を叩く音|10分・1人用|足音のない恐怖に震えたい方へ|声の書庫

恋愛/青春

📖 この台本について
⏱ 読了時間:約10分(2935字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:ホラー・怪談
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について

一人暮らしのアパートで暮らす女性が、深夜の同じ時刻に響く三回のノック音に気づくところから物語は始まる。管理会社に相談しても、隣人に尋ねても、誰にもその音は聞こえていない。音は少しずつ扉から近づき、やがて彼女自身についてくるようになるという、静かで逃げ場のない恐怖を描いた作品。

この作品の読みどころは、派手な脅かしではなく、「聞こえているのは自分だけ」という孤立感がじわじわと積み重なっていく展開にある。友人宅に逃げても音がついてくる場面は、安全な場所などどこにもないという絶望を静かに突きつける。

朗読する際は、序盤は落ち着いた日常のトーンを保ち、音が近づくにつれて呼吸を浅く、声のトーンを抑えながら緊張を高めていくと効果的です。ラストは囁くような声で締めくくることをおすすめします。

▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)

① 語りのトーン

序盤は日常の落ち着いた声で淡々と読み進めてください。「不満らしい不満は、これといってなかった」の部分は平坦に、この後の異変との対比を意識すると効果的です。

② 緩急のつけ方

「コン、コン、コン。」のノック音は、毎回同じテンポで、間を置かずに読むと不気味さが増します。「そこには、誰もいなかった。」の一文の前後は、しっかりと間を取ってください。

③ 感情表現のコツ

友人宅でも音が聞こえる場面は、抑えた声から徐々に震わせるように変化させると、逃げ場のなさが伝わります。「うそ……」は小さく、絞り出すように発声するのがおすすめです。

④ ラストの処理

最後の「コン。」は、囁くように、余韻を残して読み切ってください。声を張らず、静かにフェードアウトさせることで恐怖が持続します。

台本本文

一人暮らしを始めて、もう三年になる。駅から徒歩十分、築年数はそれなりだけれど、家賃は安く、日当たりも悪くない。休日には近くの喫茶店でコーヒーを飲み、平日は残業続きでも、この部屋に帰れば気持ちが落ち着いた。不満らしい不満は、これといってなかった。あの音を聞くまでは。

最初に気づいたのは、九月の終わりのことだった。仕事から帰り、いつも通り布団に入って、うとうとし始めた頃。扉の外から、小さな音がした。

コン、コン、コン。

三回。誰かが遠慮がちにノックしているような、静かな音だった。

「こんな時間に、誰だろう」

枕元の時計を見ると、午前二時を少し過ぎていた。息を潜めて耳を澄ませたけれど、それきり音は止み、廊下から足音が聞こえてくることもなかった。空耳だろうと思い、そのまま眠りに落ちた。

けれど、次の夜も、まったく同じ時刻に、同じ音がした。コン、コン、コン。

三日目の夜、私はとうとう布団を抜け出し、扉に近づいて覗き穴から廊下を確認した。誰もいない。白い蛍光灯の光が、無人の廊下を静かに照らしているだけだった。

「気のせいよね、きっと」

そう自分に言い聞かせて、また布団に戻った。だがその夜を境に、音は毎晩必ず聞こえるようになった。午前二時、コン、コン、コン。まるで誰かが、規則正しく私の帰りを待っているかのように。

一週間が過ぎた頃、私は管理会社に電話をかけた。

「最近、夜中に誰かがドアをノックしてくるんですけど、心当たりはありますか」

担当者は少し困ったような声で答えた。

「うちの物件では、そういったご報告は他にいただいておりませんね……念のため、防犯カメラの映像を確認してみましょうか」

数日後に届いた返事では、私の部屋の扉の前に誰かが立つ様子は、映像のどこにも記録されていなかった。廊下には、猫の一匹すら通らない。それでも音だけは、毎晩、律儀に三回鳴った。

隣人にも、それとなく尋ねてみた。壁一枚を隔てた部屋に住む同年代の女性は、怪訝そうな顔をした。

「え、そんな音、聞いたことないですけど……大丈夫ですか?」

その反応に、かえって不安が募った。誰にも聞こえていないのに、私にだけ聞こえている。それはつまり、扉の外の出来事ではないのかもしれない。そう思い始めると、夜が来るのが怖くなった。

十月に入る頃には、音の聞こえる位置が、少しずつ変わっていることに気づいた。最初は扉の向こう側、廊下の方から響いていたはずのノックが、いつからか、扉そのものから聞こえるようになっていたのだ。まるで扉の木材そのものが、内側から叩かれているかのように。

「まさか、そんなはずない」

震える手で扉にそっと触れてみると、ノックの音に合わせて、かすかな振動が指先に伝わってきた。空耳でも、幻聴でもない。何かが、確かに扉を叩いている。

眠れない夜が続き、目の下には濃い隈ができていた。仕事にも身が入らず、同僚から体調を心配される日が続いた。それでも、あの音のことを正直に話す勇気はなかった。誰かに話したところで、信じてもらえるはずがない。そう分かっていたからだ。

藁にもすがる思いで、私は近所の古い神社に足を運んだ。石段を上り、色褪せた鳥居をくぐると、境内には落ち葉の匂いが漂っていた。宮司らしき老人に、それとなく夜中に響く音のことを話してみた。老人はしばらく黙って聞いたあと、静かにこう言った。

「音が近づいてくるうちは、まだ間に合う。けれど、音の場所が分からなくなったら、それはもう、外の話じゃない」

意味がよく分からないまま、私はお守りだけを受け取って帰った。けれど、その言葉は、いつまでも耳の奥に残り続けた。

音から逃れたくて、私は友人の家に数日間、泊めてもらうことにした。荷物をまとめ、あの部屋を離れた夜は、久しぶりにぐっすり眠れる気がしていた。

友人のマンションは新しく、明るく、あの部屋とはまるで違う空気が流れていた。夕食を済ませ、他愛のない話で笑い合ってから、客間の布団に入った。ようやく安心できる、そう思っていた。

けれど、午前二時。

コン、コン、コン。

同じ音が、同じ数だけ、同じ間隔で聞こえてきた。今度は、客間の壁の方から。

「うそ……」

血の気が引いた。ここは、あの部屋じゃない。誰も、私がここにいることすら知らないはずなのに。音は、部屋についてくるのではなく、私自身についてきているのだと、ようやく理解した。

翌朝、青ざめた顔の私を見て、友人は心配そうに声をかけてきた。

「顔色悪いよ、大丈夫?昨日の夜、何かあった?」

私は、何も聞こえなかったかと尋ねてみた。友人は首をかしげ、何も聞いていないと答えた。誰にも聞こえていない。それは、最初からずっと変わらなかった。

これ以上、誰かを巻き込むわけにはいかない。そう思い、私は逃げるのをやめて、あの部屋に戻ることにした。荷物を解きながら、窓の外がすっかり暗くなっていくのを、ただ黙って見つめていた。

引っ越すことも考えた。けれど、あの音が本当に部屋ではなく私自身についてくるのだとしたら、どこへ逃げても意味がないのかもしれない。そう思うと、足がすくんで、次の行動に移ることさえできなかった。

そして十一月のある夜、私は思い切って扉を開けてみた。廊下には、やはり誰もいない。冷たい夜風だけが吹き込んできた。ほっと息をついて振り返ったそのとき、部屋の奥、クローゼットの方角から、コン、と小さな音がひとつした。

「え……」

心臓が跳ねた。扉を叩く音は、外から聞こえていたのではなかったのだ。ずっと、今まで。

震える足でクローゼットに近づき、そっと扉を開けてみた。中には、いつも通り、衣類とダンボール箱が詰まっているだけだった。おかしなところは、どこにもない。私は詰めていた息を吐き出し、乾いた笑いをこぼした。

「なんだ……考えすぎか」

そう呟いた、その瞬間だった。

背後で、コン、コン、と音がした。

振り返る間もなく、三度目の音が、耳のすぐ後ろで響いた。

コン。

それは、扉からでも、クローゼットからでもなかった。私のすぐ後ろ、腕を伸ばせば届くほどの距離から聞こえてきたのだ。

部屋の電気は、確かに点いていた。誰もいないはずの部屋の中で、私は身動きひとつ取れなかった。息を止めて、ゆっくりと、後ろを振り返った。

そこには、誰もいなかった。

それから何日もの間、私は眠ることをやめた。日が暮れると照明をすべて点け、音楽をかけ、少しでも気を紛らわせようとした。それでも二時が近づくと、指先が勝手に震え出し、呼吸が浅くなっていくのが分かった。

けれどそれからというもの、私は気づいてしまった。ノックの音が聞こえるたびに、それは扉から、廊下から、クローゼットから、そして今は、私のすぐ隣から聞こえてくるということに。

音は、少しずつ、確実に近づいてきている。神社の老人が言っていた言葉の意味を、今になってようやく理解した気がする。音の場所が分からなくなったら、それはもう、外の話ではないのだと。

今夜も、二時になれば、あの音が聞こえるだろう。コン、コン、コン。三回。

けれど、今度はもう、扉の方を振り返る必要はないのだと思う。次に音が鳴る場所を、私はすでに、知っているから。

耳を澄ませば、もう聞こえる。すぐそこ、すぐ近くで。

コン。

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