📖 この台本について
⏱ 読了時間:約5分(1500字)
👤 登場人物:女性1名(1人用)
🎭 ジャンル:感動・泣ける
🎙 用途:朗読配信・練習・ボイスサンプル
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作品について
毎年、命日に花屋を訪れる主人公。かつて一緒に暮らした姉は、雨の日にだけ花を買う人でした。姉が遺した小さな習慣をなぞるように花を選ぶうちに、忘れかけていた記憶が一つずつ蘇っていきます。雨音と花の香りに包まれた回想の中で、姉妹の何気ない日々と、静かに失われた時間を描いた物語です。
本作の特徴は、花を選ぶという一つの行為を軸に、過去と現在が自然に重なっていく構成にあります。大きな事件や劇的な展開はなく、日常の記憶の断片が積み重なることで感情が深まっていく作品です。花屋の店主との短いやりとりが、物語に温かな奥行きを与えている点も読みどころです。
朗読の際は、静かで丁寧な語り口を基調にするのがおすすめです。感情を抑えつつも、回想の場面ではほんの少しだけ声に柔らかさを加えると、姉への想いが自然ににじみ出る朗読になるでしょう。
▶ 朗読のポイントを見る(朗読される方向け・クリックで展開)
① 語りのトーン
全体を通して、落ち着いた中音域で語るのが効果的です。語り手はすでに悲しみと長く向き合ってきた人物であり、取り乱すような感情はありません。冒頭の「今年も雨だった」は、淡々と、けれどどこか安堵にも似た静けさを込めて読み始めてください。独り言のように自然な声が、この作品には合います。
② 緩急のつけ方
花屋に入ってからの地の文は落ち着いたテンポで進め、姉の記憶が蘇る場面で少しだけテンポを緩めてください。「雨の日は花が寂しそうだから、連れて帰ってあげるの」という姉のセリフは、語り手が姉の声を思い出しながら口にしている感覚で、ほんの少し間を取ってからゆっくり読むと効果的です。
③ 感情表現のコツ
最も感情が揺れる場面は、店主が姉のことを覚えていたと分かるところです。ここでは声に驚きと温かさを同居させてみてください。泣くのではなく、胸の奥がじんと熱くなる感覚です。「あの人のぶんも、ですよね」という店主のセリフは、穏やかに、けれど確かな優しさをもって読んでください。
④ ラストの処理
最後の一段落は一語ずつ丁寧に声を置くように読みます。最後の一文を読み終えたあと、ゆっくりと3〜4秒の余白を取って終えてください。雨上がりの空気がふわっと広がるような、静かな余韻を意識すると美しくまとまります。
── 台本本文 ──
今年も雨だった。姉の命日は、決まって雨が降る。
駅前の花屋は昔と変わらない場所にあって、変わらない緑色のひさしを出していた。わたしは傘をたたみ、軒先に一歩入る。水を含んだ花の匂いが、ふわりと鼻を包んだ。
姉は雨の日に花を買う人だった。晴れた日ではなく、決まって雨の日に。
理由を聞いたことがある。あれはたしか、わたしがまだ高校生の頃だった。夕方、買い物帰りの姉が濡れたカーネーションを一輪だけ持って帰ってきた。
「なんで雨の日ばっかり買ってくるの」
姉は花瓶に水を注ぎながら、少し考えるように首を傾げて、それから笑った。
「雨の日は花が寂しそうだから、連れて帰ってあげるの」
変な理由、と思った。でも、それから雨の日に花を見るたびに、なんとなく姉の気持ちがわかるような気がした。雨に打たれて俯いている花は、たしかに誰かに見つけてもらいたそうな顔をしている。
店内をゆっくり見て回る。ガーベラ、カスミソウ、スターチス。姉が好きだったのはどれだったろう。好きな花を聞いたことがあったはずなのに、思い出せない。もう七年も経てば、記憶はこうしてところどころ欠けていく。
白いトルコキキョウが目に留まった。ふちがほんのり紫がかっている。姉の部屋のカーテンが、こんな色だった気がする。
「すみません、これを五本ください」
声をかけると、奥からエプロン姿の女性が出てきた。六十代くらいだろうか。銀縁の眼鏡の奥の目が、わたしを見て少し細くなった。
「……あの、毎年この時期に来てくださる方ですよね」
覚えていてくれたのか、と驚いた。年に一度、ほんの数分立ち寄るだけの客を。
「以前、お姉さんとよくいらしてましたね。雨の日に来る方だったから、よく覚えています。いつも一輪だけ選んで、大事そうに抱えて帰っていかれて」
知らなかった。姉がこの店の常連だったことも、店主が姉を覚えていてくれたことも。わたしの知らない場所にも、姉の時間はちゃんと流れていたのだ。
店主はトルコキキョウを丁寧に包みながら、ぽつりと言った。
「あの人のぶんも、ですよね」
ただそれだけの言葉だった。それなのに、胸の奥がじんと熱くなって、わたしは小さく頷くことしかできなかった。
花束を受け取って外に出ると、雨はいつの間にか止んでいた。濡れたアスファルトに薄日が差して、あちこちに小さな光の粒が散らばっていた。
わたしは花束をそっと胸に寄せた。紫がかった白い花びらが、雨の雫を一粒だけ残して光っている。
「お姉ちゃん、今年も連れて帰るね」
返事はない。けれど、頬に触れた風がほんの少しだけ温かくて、わたしはそれを返事だと思うことにした。
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